スタッフコラム
[ 2016.04.08 掲載 / 2017.06.01 更新 ]
Z/Xスタッフによる制作コラムです。
様々な担当から制作にまつわるよもやま話をお伝えしてゆきます。
[ 2017.06.01 追記 ]
・第13回を掲載しました。
モザイク齋藤の地下室(仮)
第13回 お祭りの話 (2017.05.15,05.25,06.01)
皆様お久しぶりです。モザイク齋藤です。
新章「運命廻放編」第一弾となる「祝福の蒼空」の販売状況が好調で、嬉しい限りです。
新ゼクスペクティリスちゃんのデッキを組まれている方も多いようですね。
今回の披露するお話では、メインのキャラクターたち以外のサイドストーリーがどのように繋がるかをお見せできればと思います。
#1
ディンギルの姿が消えてからひと月が過ぎようというころ、各地が復興に向けて動き出す姿を取材していた僕の所へ、職場経由で一通の手紙が送られてきた。
神を倒したことを祝う、その名も「破神祭」のプレス枠。ようは取材に来いという話だ。差出人は、緑の世界の大手プロダクション。その名前には大いに見覚えがあった。カピバラ氏と一緒に応援していたアイドルが所属している、緑の世界では名の知れた会社だ。社名の横に並んで、他の世界の企業、組織の名前も書かれている。なんだか不思議な気分だ。
「つべこべ言わんと、さっさと行って来るニャ」
げし、と肉球が僕のすねを蹴る。
「へいへい。ところで取材費は」
「交通費のみニャ」
「そないでっか」
このように猫を先輩に持つと苦労する。ブラックポイントが出現してなお、この国では依然として子供は学校に通い、いずれ職業につくという慣習に従って回転している。将来僕のように猫を上司に持つ誰かを想像して、少し同情してしまう。
そんなわけで、手紙を開いて三日後、ヒッチハイクと自転車でブラックポイントを迂回しつつ、中年へと差し掛かる身体に鞭打って、今や東北方面への特急列車の始発駅になっている宇都宮までたどり着いた。大宮までの路線は修復されているのだが、民間での使用はほとんど許可されていない。
駅に入るまでの間にも、官民どちらか分からないが、武装した警備員の姿を何人か目にすることになる。自分が戦場カメラマンのようだと言えば聞こえはいいが、どこか気持ちが落ち着かない。と思えば、キオスクのおばちゃんなどは前と変わらず弁当を売っており、豪胆さというか、人間の適応力の高さを感じさせる。
弁当を買って待つホームに滑り込んできたのは、オレンジ色の見たことがない特急列車だ。電光掲示にはご丁寧に「破神祭」の文字が躍っている。日本語、英語、あとは、他の世界の文字だろうか、読めない言語が続く。
先ほどまで流れていた放送に、ノイズが走る。
『さあ、破神祭行きだぜ、早く乗んな!』
妙に威勢がいい男性の声とともに、列車の扉が開かれた。内装も、普通の新幹線ではない。オレンジ色の席と紫色の席が左右に2列ずつ並んでいた。
B20-036「音速の銀風テジェヴェ」
Illust. 吉岡英嗣
周りの席には、エンジェル、リーファー、ディアボロスと、不思議な面々が座っていた。ディンギルの到来まで争っていた彼らが各々に時間を潰したり、談笑したりしている姿に、なんとなく涙が出そうになる。
緑地に赤、黒、薄緑でラインが引かれた弁当のフタを空けて、中の寿司に醤油をかける。酢飯と醤油の香りが空腹を殴りつけ、僕は一瞬でノックアウトされた。
都市を離れると、車窓から見えるのは山か田んぼと相場が決まっている。時折見える戦闘の痕跡も、今日は少し懐かしいように思えた。
「お隣、よろしいかしら」
声を掛けられて振り向くと、青白い顔の女性が立っていた。プラチナブロンドに、青いアイシャドウ。メイクも本人もバッチリだが、同時に一見してノスフェラトゥと見まごう死者の雰囲気も強調されている。右目についた虹色の仮面から、彼女がディアボロスであることが察せられた。
「どうぞどうぞ」
図々しく隣の席に置いていたカメラバッグを足元にひっこめ、女性に席を明け渡した。気が付けば、数度の停車を経て周りの席も埋まりつつある。ディアボロスと相席は初めてだが、迷惑な客を演じたくはない。
B20-062「美粧の魔人ルトラム」
Illust. ねぎ
「アナタも、破神祭へ?」
ええ、と相づちを打つ。
「この時代の人なのに、珍しいわね」
言われていれば確かにそうなのかもしれない。僕以外に「普通の人間」は見かけていない。ゼクス達からしても、飽くまでゼクス達のお祭り、という認識なのかもしれない。
こういうものでして、と名刺を差し出す。
「あら、ネコの新聞社さんの方なのね。わざわざ人間の方を取材に出すなんて、変わってるわ」
僕もそう思います、と言いながら、ヤケドの治療で特大のエリザベスカラーを着けられ、ネコラッパ状態なのを気にする先輩記者の姿を思い出す。
「ネコと言えば、先日ネコの一団がにゃーにゃー言いながら町はずれのお屋敷に入っていったけど、あの子たちも新聞記者さん?」
いえ、存じ上げないですね。そちらはそちらで、戻ったら取材に行ってみようかな。そういえば、お姉さんも破神祭に行かれるんですよね。
「そうなのよ。せっかくだから、私も名刺を……」
差し出された名刺には、『デス・メイクアップアーティスト』という文字が不気味なフォントで踊っていた。死化粧師はエンバーマーだかなんかなので、似たようで違う職業なのかもしれない。
「普段はノスフェラトゥ専門なんだけどね、ちょっと頼まれちゃって」
彼女は一枚の写真を取り出した。赤いジャージを着た、素朴なリーファーの少女が写っている。
B20-084「新緑の歌乙女ペクティリス」
Illust. アカバネ
「彼女の写真を見たとき、ピンときたの。この子の舞台化粧をするのは、運命なんだなって」
運命、ですか。
「イケメンのプロデューサーさんが熱心に頼み込みに来たってのもあるんだけどね」
そうですか。と応えて、僕は苦笑いを返す。彼女はグッと身を乗り出して熱っぽく語りだした。大きく開いた胸元が強調され、僕は視線の行き場を探す。
「普段はね、私は死を輝かせるために化粧をするの。普通は生きている人が、より生を輝かせるために化粧をするのだけど。生が輝けるならば、また死も輝ける。死は生の影ではないと私は思うの」
それは、表裏ではなく、別の存在ということですか。
「そうね。本来的な死じゃなくて、死後の生命と隣り合わせだからこそ、感じることかもしれないけれど」
なるほど。死んだことがないので分からない部分もありますが、死者と生者では輝き方もまた異なる、ということですかね。
「そうなの。アナタも、アイドルとか役者さんの写真とか撮ったりするのかしら」
スタジオ撮影は、プロの猫にお任せですけどね。
「リーファーの……特にこの子は、ノスフェラトゥとは真逆。私たちは永遠に終わらない死の世界を享楽的に楽しんでいるけど、限りある生を精一杯楽しんでいるわ。ときにはそういうものに触れないと、私たちも腐っちゃう」
確かに、輝いているものを写真に収めたり、文字に書き起こしたりするのは熱が入ります。と受け答えしているうちに、僕もそのリーファーの子に興味が湧いてきた。こんなにも誰かの感情を動かせる、熱を伝えることができる存在に。
「そうだわ、あなたも、この子の取材をしたらいいんじゃないかしら」
その提案は渡りに船ですが、よろしいんですか?
「いいわよ。せっかくのお祭りですもの。私たち裏方だって見たいものを見て楽しみたいように楽しむ権利があるわ」
列車がゆっくりと速度を落とす。
『まもなく到着するぜ! 忘れものが無いように気をつけろよ!』
やはり暑苦しい音声でアナウンスが流れた。荷物を網棚から下ろしてお姉さんとデッキに出ると、僕以外にも何人か、普通の人間らしい姿があった。パートナーのゼクスと談笑している。ゼクスの方はなんともないが、人間の方は左腕を包帯で吊り下げていた。招待の声がかかったということは、彼も、多くの勇士が赴いたという邪竜退治のメンバーあたりだろうか。
ドアが開くと、春の陽光が降り注ぐ。明日の破神祭に向けた気の早い喧噪に向けて、僕らは歩き出した。
#2
エスカレーターを下り、春の風が吹くペデストリアンデッキに出る。南北のブラックポイントからある程度離れた位置にあるこの都市は、その発生以前から景観を保ち続けている。
僕が持っているのと同じマップと手紙を見ながら、ルトラムさんが歩き出す。階段で下に降りて、バスターミナルへ。本数はだいぶ減ったが、こうした公共交通網が生きているのはありがたい。
自販機で買ったお茶を飲みつつ二人でバスを待っていると、同じように階段を降りてくる影が目に入った。長く艶やかな黒髪をたたえた、静かな表情の美女。立てば芍薬座れば牡丹というが、花札に描かれた水仙のような雰囲気がある。
右目に鳥の翼のような片眼鏡を着けているところを見ると、彼女もディアボロスなのかもしれない。などと考えていると、隣のルトラムさんが女性に向けて手を振った。
「あら、ディザじゃない」
B19-064「書物の魔人ディザ」
Illust. こぶいち
親し気に話しかけるルトラムさんに、女性――ディザは首をかしげる。
「……誰、でしたっけ」
「ちょっとちょっと! もうン年前に会ったきりとはいえ、さすがに傷つくわよ。どうせメイク中も本に夢中で、私の顔なんて見てもなかったんでしょうけど」
「覚えてない、ですね」
真顔での返答に、ルトラムさんはしばし天を仰ぎ、ため息をつき、あきらめてベンチに腰を下ろした。なんのタイミングかは知らないが、自分がメイクした対象が自分を覚えていなかったことが大層ショックであることは伝わってきた。
「あなたも見覚えがないですが、どこかでお会いしていますか?」
ディザさんの問いかけに、初対面ですと返す。変わらない表情が、人を遠ざけているような、あるいは、少し緊張しているような、そういう印象を受けた。こういう者で、と名刺を差し出すと、彼女は不慣れな様子でそれを受け取った。
「白の世界の、新聞社……あなたの記事、読んだことがあります。猫を連れて行きたいビーチ特集。……とにかくケット・シーたちが『水に入りたくない』の一点張りの」
昨年夏の記事だ。本の虫らしいけど、他の世界の新聞まで読んでいるのか。などと感心していると、ふいに階段の上から高めの声が発された。
「弱小新聞社のコラム記事までよく覚えてるにゃ」
なんだと、と思い声のもとを探すと、片眼鏡をかけてベレー帽をかぶったケット・シー――アビシニアンが姿を現した。外注で記事を頼んだりしたことがある、自称人気小説家のフリーライターだ。
B20-044「取材旅行するアビシニアン」
Illust. 椋本夏夜
「アンタも破神祭の取材かにゃ。にゃあと違って他の世界のゼクスと話をする機会なんてそうそうないにゃ。ご機嫌を損ねないよう、せいぜい気をつけるにゃ」
ふんぞり返ってドヤ顔を決めると、いつの間にかベンチに座ったディザさんの膝の上にひょいっと乗っかる。なんだそりゃ、羨ましいぞ。
視線に気付いてさらに濃いめのドヤ顔になっていく猫から目をそらして空を見上げると、虹色の蝶の翼を羽ばたかせた少女が飛んでいくのが見えた。赤の世界の、ミソスだろうか。
待つこと十分ほどで到着したバスに乗り、県民の森なる場所の先にある会場を目指す。
途中、何組かのゼクスたちが同じバスに乗り込んだ。住宅街が広がる道を抜け、球場の横を通るとしばらく田園が続く。再び住宅街に入り、さらに森を抜けると、目的の場所が見えてくる。サッカーの試合などが行われたスタジアムと、隣接したプール。その奥に運動場とアリーナが建っている。
遠目に、駐車場には屋台が立ち並び、カラフルな大小様々の影が歩き回っている様子が見える。
「遠いところをご足労いただき、ありがとうございました」
バスを降り、サブアリーナの中に設けられた事務所を訪れた僕たちを出迎えたのは、銀髪のリーファーの青年。2メーター近い長身で、切れ長の瞳がメガネの奥からこちらを見つめている。
B17-098「見下ろすバイネーシー」
Illust. 椿春雨
「申し遅れました。本企画の統括をしております、バイネーシーと申します」
定型の名刺交換を済ませ、企画全体のコンセプトや、明日の流れについて説明を受ける。メインとなるのは様々な世界のアーティストが集まるライブイベントで、会場の外で行われる出店やお祭りイベントに関しては申請が必要だが、基本的には各世界の自由裁量で内容が決められている。出演者のリストを見ると、聞いたことのある名前がずらりと並んでいた。
住宅街が近いにも関わらず、よくこんな大型のイベントが企画開催できたものだ。目の前の青年がよほど敏腕なのか。
「開催が決まってから地域活動に従事してくださった、出演者やスタッフの協力のおかげですよ。それに、北海道での邪竜討伐戦のあとは、我々を人類の守護者のように見てくださる方も増えましたし」
人類の守護者、か。その言葉にちょっと不穏な空気を感じて、僕は出されたお茶を一口飲んだ。
「それが正当な評価であるとか、そうなるべきとは思っていませんよ。本来、ゼクスはそれぞれの未来のために戦っています。スーパーヒーローじゃなく、戦いのための剣に過ぎません」
彼の言葉は、自らを否定するような、自身の言いたい事と反するような響きがあった。本来であれば、リーファーたちのお祭り騒ぎや創作活動など戦いには必要ない。頷きながら、僕は次の言葉を待つ。
「今回インタビューをしていただきたい新人アイドルは、僕たちに新しい未来の可能性を示してくれる、そんなパワーを持った少女です」
ルトラムさんに見せられた写真のことを思い出した。彼はその青い瞳に、少女のいかなる可能性を見たのだろう。
「失礼、長々話過ぎてしまいましたね。では、出演者インタビューのタイムスケジュールはこちらです。時間までは、会場施設は自由に見ていただいて大丈夫。記事と写真の確認は招待状に同封した通りです」
急に話を戻され虚をつかれた僕は、バイネーシー氏に聞きたかったアレやコレやがすっぽ抜けてしまう。
追い出されるように事務局を出た僕は、マイスターたちが出入りしているメインアリーナへと向かった。時間は夕方に差し掛かろうとしている中、花で覆われたステージが組み上げられていた。リーファーとノスフェラトゥがコンセプトを決め、マイスターが設計し、メタルフォートレスが組み上げているのだという。アリーナの天井では、エンジェルたちが飾り付けやライト、音響のチェックを行っていた。
壮大なRPGのエンディングのようだな、とふと思った。ギルガメシュを倒したことを祝う盛大な祭りが開催されている平和なひとときに、そこにいない英雄たちは何を想うのだろうか。宴が過ぎれば、世界はまた炎の中に戻される。それは、本当に「そうなるべき」ことなのだろうか。
そんなことを考えていると、後ろからどん、と何かにつつかれた。
「ああっ! ごめんなさい!」
少女の声に後ろを振り向くと、ピンク色のセーラー服がいた。正確には、その服を持っている誰かが立っていた。おそらく誰かの衣装なのだろう。持っている誰かさんは身長が低いせいか目の前が見えていないらしい。持とうか、と問うと「お…お願いします」と素直な返事が返ってきた。
ひょい、と服がかかったハンガーのフックを持つと、プラチナブロンドのツインテールを揺らした、エンジェルの少女が姿を現した。緑のエプロンが目に鮮やかだ。
B20-108「はじめての衣装『エンジェル&ブルーローズ』」
Illust. 真時未砂
「ありがとうございますっ!」
よく見ると少女はもう一着、蒼い衣装の入った袋を抱えていた。さすがに大変そうだな。明日の衣装だから、衣装部屋まで持っていけばいいんだろうか。
「そうなんです、明日の衣装、あたしが作ったんですよ!」
少女はえっへんと胸をそらした。
「すっごく背の高いリーファーさんが、私にお願いしたいってお手紙くれたんですよ! これってスゴイと思いませんか!?」
もしかしてバイネーシー氏は、自らこうやって各世界の誰を巻き込むのか、一人一人選定して回ったのだろうか。ギルガメシュ討伐からまだ一月。プロジェクトはいつ始まっていたのか。
「聞いてますか!?」
聞いてる聞いてる。
「お歌を作る人魚さんと、布屋のウサギさんと一緒に考えたんですよ!」
エンジェルの少女の自慢話は止まらない。そりゃあそうだ。自分の作った衣装がステージで舞うなんて、自分の子供みたいに嬉しいだろう。
間もなくリハーサルが始まる時刻だ。僕らは明日に楽しみをとっておきたくて、小走りにアリーナを抜け、衣装室を目指した。
#3
――それでは、よろしくお願いします。
「よろしくお願いします!」
――ペクティリスさんはこの破神祭のライブが初めての大きな舞台とのことですが、デビューも最近なんですよね。
「そうなんです。インタビューも初めてなので、すごくドキドキしています! 今でも夢じゃないか心配になっちゃって……」
B20-084「新緑の歌乙女ペクティリス」
Illust. アカバネ
――もともとはバーベナさんに憧れてオーディションを受けられたとお伺いしています。
「きっかけは、セカンドライブのポスターを見たことです。すごくキレイで可愛い、キラキラしててすごいなって。それで、アイドルってなんだろうって調べ始めたんです。最初は、アイドルが職業なのかも知らなくて、お名前なのかなって勘違いしてました。今から考えるとちょっと恥ずかしいです。えへへ…」
――デビューが決まって、レッスンなども急ピッチで進められたのではないでしょうか。
「目まぐるしい毎日で、オーディションが1、2年前みたいに感じるくらいです。初めてのこと尽くしで最初はとまどってたんです。迷惑かけてないかな、あたしなんかで本当にいいのかな、って。そんなとき、トレーナーさんやスタッフの皆さんが『レッスンなら何回失敗しても構わない。その代わり全力で立ち向かえ』って背中を押してくれたんです」
B20-094「熱血トレーナー サリクス」
Illust. 上田メタヲ/株式会社ウィッチクラフト
――周りの方々との絆でがんばってきたんですね。この舞台自体も、様々な世界が共同して作られているようですが。
「天使さんにウサギさん、人魚さんに、お髭のおじ様に、かっこいいロボットさん、本当に沢山の方々に支えていただいています。本当は、一人一人お礼を言いに行きたいくらいなんですけど、それは難しいって言われてしまったので、えーと、このライブで伝えられたらなって思います」
――黒の世界の協賛で、すべての世界に中継が入るそうですから、来られなかった皆さんにも届くといいですね。そうそう、このインタビューが載る新聞も全ての世界に発信されますよ。では次に――
◆ ◆ ◆ ◆
インタビューを終えて、舞台裏を小走りに進む。開幕を告げるオープニングアクトは隣のプールを改造した特設ステージで行われる予定だ。取材者席に滑り込むが早いか、マーメイドたちのトランペットが鳴り響き、眼鏡をかけた銀髪のマーメイドによって始まりの音楽が紡がれる。
B18-035「浪漫の歌曲姫シュヴァルト」
Illust. こもわた遙華
音の重なりによって水面が揺れ、心が、身体が震える。写真を撮り、メモを取り、音を、演技を焼き付けていく。シンクロナイズドスイミングのように水面を複雑に動きながら軍歌にも似た勇壮な音楽が紡がれていく。大きな歓声が上がった。
観客席に見える種族の数は、列車の中とは比べ物にならない。時折、カメラを持ったディアボロスがギリギリ邪魔にならないところを飛びながら、大きなスクリーンにアップの映像を映していく。
ペクティリスの出番は中盤。曲の切れ目で手元のセットリストを見ながら、各ステージを移動する算段を再確認した。
闇の関係者席を抜けてメインアリーナへ向かう道には、屋台が並んでごった返していた。飲食の類はもとより、同人誌のブースや占いの館、弾き語りをするマーメイドなど、よく言えばバラエティ豊かで、基本的には混沌としていて大変に楽しい。
「あら新聞記者さん。1日ぶりね」
人波の中からこっちに手を振るのは、ルトラムさんだ。女性にしては大きめのカートバッグを転がしている。
「向こうの準備が終わったから、次はプール側でメイクなのよ。全員ウォータープルーフにしなきゃいけないから大変よ」
そう言って軽く笑うルトラムさんは活力に満ちているように見えた。彼女もまた、この祭りの主役の一人なのだ。終わったら取材をしてもいいか問うと、「もちろんよ」と快い返事が返ってきた。
「あなたも、頑張ってね」
そう言って手を振るルトラムさんと別れて、僕はメインアリーナを目指す。
リノリウム張りの廊下はスタッフの行き来で慌ただしい。楽器を乗せたカーゴが移動し、舞台装飾を抱えたスタッフが走る。
ぶつからないように歩いていると、控室のドアが開き、赤い髪の少年と青い髪の長身の青年の二人組が姿を現した。各々、赤いエレキギター青いエレキベースを持っている。
「ああ? なんでフツーの人間がいるんだ?」
B21-065「敵意の魔人ホシティリ」+B21-071「怒号の魔人トネット」
Illust. 山田J太
いかにも、というヤンチャな声色で少年の方がこちらを不審そうににらむ。僕がプレスパスを見せると、犬歯を見せてニヤリと笑った。二人の右目には仮面がついている。
「アンタ、新聞記者か。次の次には俺達『スパイトマリス』の出番なんだから、最高にカッコよく記事にしてくれよ」
そう言って肩をポン、と叩かれる。
「……行くぞ、トネット」
青髪の青年が少年を促す。少年のナイフのような鋭さに対して、こちらは重厚な鉄球のような印象を受けた。
「わかってるってホシティリ。俺達のギグで駄犬どもをキャンキャン鳴かせてやるぜ」
「……センスが古いな」
「ンだとオラァ!」
二人はお互いのスネや肩をガンガン殴り合い蹴り合いながら廊下の先へ消えていく。写真の一枚でも撮ればよかった。
舞台裏を通り、撮影のためにアリーナのスタッフ通路に出る。ドアを開けた瞬間、怒号のような歓声と熱風、そして七色のケミカルライトの光が嵐のように吹き荒れた。
ステージの左右に取り付けられた巨大なスピーカーから静かなピアノのイントロが流れ出し、歓声が一段と大きくなった。あの頃は、あの姿をこんな特等席から見られるとは思ってもいなかった。
スモークの間から、金色の歌姫、バーベナが歩み出た。
B21-098「トップアイドル バーベナ」
Illust. にもし/工画堂スタジオ
小さなこえが 中波にのって あなたに届くなら
私の祈りも 寂しさも 伝わってしまうのかしら
私のうたを聴いたら あなたは振り返るのかな
あの日の夕焼け 思い出すかな
すれ違うたび がんばってねって言い合うけれど
本当のことばは 音にできない
きっと叶うと夢見てた あなたとの未来
バーベナは瞳から涙をきらめかせ、マイクを持たない左手で胸を抑えて歌を紡ぐ。
歌が流れる間、観客席では緑色の光が波のようにリズムをとっていた。
割れんばかりの拍手を受け、バーベナは深々と頭を下げ、笑顔で手を振る。その瞳が、本当に一瞬、誰かを探すように動いた、ような気がした。
「皆さん、遠いところからお越しいただき、本当にありがとうございます。お祭りは、楽しんでいますか?」
問いかけに応える歓声が上がる。
「私、バーベナの花言葉には『家族の和合』という意味があります。バラバラの未来に分かれた私たちですが、かつては今という一つの時代で、家族だった存在です。今日は……今日だけでも、家族として、ともに時間を過ごしましょう」
再び拍手。時折、静かに泣く声が聞こえてくる。僕はシャッターを切りまくった。
バーベナがステージの奥に消えると、赤と青のレーザーライトが闇を切り裂き、低いベースの音が会場を揺らし始めた。
「待たせたなァ、駄犬どもォオオオ!」
ステージの “せり” から射出されるように、『スパイトマリス』の二人が飛び出した。
◆ ◆ ◆ ◆
――プロデューサーはあのトップアイドル、バーベナさんを育てたバイネーシーさんということですが。
「はい、その、初めてのプロデューサーさんで、すごい人が来ちゃったなーって。『あなたは新しい未来を作れる才能がある』って言っていただいたんですけど、正直今もまだぴんと来てないです。でも、最初にこんな大きな舞台を用意していただいて、レッスンもずっとお付き合いいただけて、本当に感謝しています。がんばってがんばって、少しでも恩返ししたいなって思います」
――それでは、破神祭にいらっしゃっている、あるいは中継でご覧になっている、世界中の方々にメッセージをお願いします。
「皆さん、改めまして、緑の世界のペクティリスです。みんなのチカラで平和を取り戻した、そんなお祭りで出番をいただいて、本当にうれしくて、ドキドキしています。まだ未熟者ですが、私の歌で、全部の世界のみんなで心を一つにできたらなって思います。がんばりますので、よろしくお願いします!」
◆ ◆ ◆ ◆
「クソ女がちょーっとダンスをハズしてました。みーっともないったら!」
「ソロパートでちょっと音程ハズしてたのはどこの絶対さんでしたっけ?」
「言いましたわね! 今度こそ解散です!」
毎度おなじみとなった漫才がステージ上で繰り広げられる。ほっぺたを引っ張り合って転げまわる二人の美女を後目に、残った二人が声を出す。
「――みなさーん! あたしたち八宝美神に新しいメンバーが加わることになりましたー!」
フリージアの声に、観客からおおおーと声が挙がる。
「私たちにない個性を確かに持ってるやつだ。楽しみにしてくれ」
そう言って、ストケシアがギターをかき鳴らす。
「私はまだ認めたわけではありません。悪戯心のないリーファーが私の八宝美神に相応しいかどうか、見届けさせていただきますわ」
「ふざけたこと仰らないでクソ女! わ・た・く・し・の、八宝美神です! あの子に関しては同感ですけれど。“まだ私たちにはない” ソロ曲まで貰って、悔しいったらありゃしない!」
「インディーズに過ぎなかった私ら八宝美神が、プロ契約を交わさせてもらっただけでもかなりラッキーなんだけどな」
ギターの音がイントロに繋がっていく。これは、最初から予定された演出なのだろうか。四人が舞台袖に消えたその瞬間、モニター上のライトが一斉に光を放った。ストリングスとピアノの優しい音が響く。
獣人と天使が仕立てた衣に、人魚の詩、草人の表現力、魔人の施した鮮やかなメイク。匠たちが組み上げたステージ。それらが混然一体となって、降臨した。
キャパシティを超えた感動や驚きは、声にならない。それを表現する音や言葉を失うからだ。
桜色の翼を広げ、少女はその手をこちらに差し出した。
「みなさん、始めまして! 私、ペクティリスっていいます!」
P20-003「八宝美神 春風の姫ペクティリス」
Illust. アカバネ
夢で願ったこの気持ち 必ずあなたに届けるよ
翼を広げて 歌に乗せて
目がくらんじゃうくらいの輝きを
息ができないくらいのドキドキを
春に咲く 満開の花みたいに
見せてあげるよ
Bloomin’ Lovin’ 手をつないで
Growin’ Lovin’ ふたりで
どんな大きな壁だって
いっせーので飛び越して
祝福の蒼空(そら)へ
(終)
第11回 「覇神を穿つ者」イラストのお話 (2017.01.19)
みなさんこんにちは。
年明け初登場の、イラスト発注とかその他色々担当のモザイク齋藤です。
昨年末は毎年恒例冬の陣ということで、海辺に佇む巨大な逆四角錐でお仕事なのがエンタテインメント企業の宿命。
そんな中3日間の会期中に2日間のフリータイムをいただいた僕は、新規作家様の開拓という名の薄い本探しに出かけてきました。
ありがたいことにZ/Xの同人誌を頒布されている方もいらっしゃいましたので、当日何冊か(全年齢ラインのもののみですが)購入させていただきました。
ソーシャルゲームやアニメなど、近年のヒット作はいずれも二次創作界隈が盛り上がっている傾向が強いなあと感じています。
こうしてZ/Xの世界観から創作意欲を湧かせ、発露していただいている姿は僕らが行っているキャラクター付けや世界観構築が上手くいっている証左のひとつであり、勇気づけられることの一つです。
今年も皆さまに愛されるコンテンツの創造と進展を目指して参りますので、何卒宜しくお願いいたします。
さて、発売が間近に迫りましたZ/X真神降臨編『覇神を穿つ者』の、毎度恒例イラスト紹介コーナーの始まり始まり。
今回は、僕のお気に入りの3枚を紹介させていただきます。
オリジナルXIII Type.IV “Pr07Ve”
B19-035「オリジナルXIII Type.IV “Pr07Ve”」
Illust. よう太
オリジナルXIIIのうち、ベガによって創られたウサ耳バトルドレスことType.IV。
Z/Xでは初登場となる「よう太先生」にイラストを描いていただきました。
ドラマCD「13姉妹雪月花」ではあんな感じやこんな感じになってうらやまけしからん描写がありますが、イラストも、なんだその……すごくエ(検閲削除)可愛らしいですね。
笑顔が激キュート。一家に一台ぜひお持ち帰りしたい。
いわゆるビットを使って防御・支援を行うキャラクターなので、左手に乗っているのと同じウサギ型ビットが周囲にも飛んでいます。
ホロカードだと(色々)見やすいと思いますのでぜひ手に入れてくださいね。
ちなみに、ヘッドギアやバーニアなどに描かれている猫耳チックなロゴマークですが、こちらはよう太先生がデザインの際に描き加えてくださったもので「CとW」から「Customized Witch」を表すロゴとなっています。 今後ほかのイラストでも見かけるかもしれませんので、覚えておくと面白いのではないでしょうか。
新猫刑事マンダレイ&オメルタの実行者ボンベイ
B19-041「新猫刑事マンダレイ」
Illust. K2商会
B19-051「オメルタの実行者ボンベイ」
Illust. Nunohito
実は、この2枚のイラストはストーリー上繋がっています。
組織を抜けたキジトラですが、組織の壊滅後も彼を追う(物理的に)黒い影がありました。
追跡者の名はボンベイ。彼は組織の掟に従い、キジトラを始末しようとします。
気絶させられ、あわや命を奪われる寸前のキジトラを助けたのは、誰あろうキムリック刑事でした。
響き渡る銃声。撃たれたキムリックはキジトラに逃げるように言い、よろめきながらボンベイに立ち向かいます。
そして、通報を受けて現場へ駆けつけた新猫刑事マンダレイが見たのは、倒れたキムリックとその場から立ち去る一匹のケット・シーの後ろ姿でした。
ですが、彼はこの悲劇をキムリックと因縁のある大怪盗ワイヤーの仕業だと勘違いしてしまうのです。
不幸な出来事が重なり、彼らの物語は本編と関係ないところへ転がり込んでいきます。
2017年はこうしたサイドストーリーもパワーアップして展開しますので、楽しみにお待ちください。
息災を祈る犬娘ウェアコリー
B19-091「息災を祈る犬娘ウェアコリー」
Illust. 泉彩
力を求め、ディンギル側につく者。
世界同士の争いをいったん置き、今現在のために戦う者。
おそらく、この戦いで無事な者などいないと思われます。
そんな中でも、誰もが息災でいられるようにという清らかな祈りは空をかけ、必ずや最前線へと届くことでしょう。
雪に覆われた山頂でみんなの無事を祈るウェアコリーのイラストは、今弾のモストフェイバリットな一枚です。
白黒の毛が特徴のボーダーコリーをモチーフにした、一房混ざった白い前髪やもっふもふのセーターが可愛らしい。
モフモフ友達のウェアシープちゃんとともに不安げな表情を浮かべる姿がイラスト到着時に10分ほど悶えるほど好きなのですが、ディンギルとの決着がついたあとに見られるであろう二人の笑顔も楽しみですね。
◆ ◆ ◆ ◆
いかがでしたでしょうか。
これらのカードが収録されたZ/X真神降臨編「覇神を穿つ者」は2017年1月26日(木)発売です。
寒い日が続きますが、アツいカードをゲットして、Z/Xライフをエンジョイしてください!
第10回 ドラゴンのお話 (2016.11.22)
みなさんこんにちは。登場頻度が多いんだか少ないんだか、モザイク齋藤です。
待望のドラゴンEXパック&スターター、「真竜の戦歌」&「導きの巫女」発売まで1か月を切ったということで、毎度おなじみイラスト紹介&解説のコーナーです。
いつもなら可愛い系のカードをバンバンご紹介するこのコーナーですが、今回はドラゴンエキスパンションということで、カッコイイドラゴンをご紹介します。
可愛い系カード(を含むEX弾イラスト紹介)は来週集中的に連載しますので、お楽しみに。
ドラゴンEX&スターターを含めると、大きく分けて5系統のドラゴンが環境に存在することになります。
竜の巫女のパートナードラゴン
E07-010「黎明を告げる焔槍ロードクリムゾン」
Illust. 竜徹
E07-021「蒼雲を貫く旋機ヘリカルフォート」
Illust. 七六
E07-032「開闢を導く煌刃イノセントスター」
Illust. イトウヨウイチ/工画堂スタジオ
E07-043「覆滅へ誘う剣獄レルムレイザー」
Illust. 吟
E07-054「爛漫を育む桜華ノーブルグローヴ」
Illust. 堀愛里
1つめは、巫女のパートナードラゴンです。
いずれも[ドラゴン/ウェイカー]となり、身体のクリスタルが巨大化するとともに姿形も変化しています。
配下のドラゴンたちが現れることに合わせて、いずれのパートナードラゴンも竜軍団の先陣を切るイメージで描いていただきました。
背景はディンギルの隆盛を表すかのような暗い夜空や暗雲ですが、ウェイカードラゴンたちの輝きはそれらを吹き飛ばしてくれることでしょう。
五帝竜
E07-009「竜炎剣王カーディナルブレード」
Illust. HMK84/工画堂スタジオ
E07-020「竜海砲后ドライブピニオン」
Illust. K2商会
E07-030「竜空天后ホーリースカイ」
Illust. 宋其金/工画堂スタジオ
E07-042「竜獄刃后デスティニーベイン」
Illust. イシバシヨウスケ
E07-053「竜華繁王アイヴィーウイング」
Illust. 輝竜司
2つめは、第3弾「五帝竜降臨」で登場したドラゴンたちです。
ウェイカードラゴンとの上下関係はありませんが、彼らの活躍によってその力を発揮します。
名前を見ていただくと、それぞれのドラゴンの性別がこっそりわかるようになっています。この性別は、人間バージョンを元にしています。
従属種
E07-008「継皇竜ブレイズナイト」
Illust. 石田バル
E07-018「星道竜スリングドライバ」
Illust. K2商会
E07-029「聖炎竜ピュリファイア」
Illust. 柴乃櫂人
E07-041「煉獄竜ファーガトライ」
Illust. オーミー
E07-052「扶桑竜アクシズリーフ」
Illust. 華潤
3つめは、EXパック「真竜の戦歌」で初登場するドラゴンたちです。
五帝竜やウェイカードラゴンたちの配下にあたるドラゴンで、王たちの露払いをする役目を担っています。
それぞれのドラゴンが色毎に軍団を組み、各地でディンギルの軍勢とぶつかり合う姿を見てみたいですね。
近くには居たくないですが。
邪竜(エルダードラゴン)
4つめのドラゴンはギルガメシュが放った邪竜たちのことです。
皆さんの活躍で各地から討伐報告が上がっていて安心しています。
ドラゴンと竜の巫女が直接邪竜と戦わなかったのは、運命に直接干渉できるのが皆さんやプレイヤーたちのような特異点だけだから、なのでしょう。
皆さんはプレイヤーたちとともに邪竜を倒し、いざディンギルの居城へ踏み込もうというところ。
竜の巫女たちの力を受けて、最終決戦の準備を整えましょう。カードはデッキにいれないとつかえないぞ。
トゥルードラゴン
そして、邪竜と対をなすように登場したスターターデッキ「導きの巫女」収録の「無色のドラゴン」の話に移りましょう。
5色の未来に分かれた後の竜でなく、それぞれの色に確定する前の存在である「トゥルードラゴン」がどのような外見や設定を持つのかは、一番の悩みどころでした。
トゥルードラゴンの共通点は、「何色にも染まっていない清純の象徴として銀の鎧を身に着けている」「五帝竜のデザインラインを残しつつ、より原初の存在的としての竜の姿(武器などを持たない)をとる」という指定を最初に決め、それぞれのドラゴンの細かな指定に入りました。
また、それぞれの名称付けも色々悩みました。
これに関しては、名前から元ネタを推察してくださっていた方がいらっしゃったので、ここで答え合わせをしておくことにします。
C18-003「火真竜アストヴェリア」
Illust. ハチ
星辰の高みを行く者(アストラル・ハイペリオン)からの、さらに造語です。
アストラル界を歩む灯火というイメージです。
ほぼほぼ造語なので問題としてはズルかったですね。
ハイペリオンはギリシャ神話の神の名前で、同時に太陽神ヘリオスを指すところから火真竜の名前としても合っていると思い、ベースに使用しました。
C18-004「海真竜リダクトナム」
Illust. K2商会
還元主義(リダクショニズム)が語源です。
世界を分解、再構築し、理解しようとする意志の顕現をイメージしました。
C18-002「地真竜テオゴニアス」
Illust. 丸山類/工画堂スタジオ
神々の誕生系譜、テオゴニアが語源です。
ディンギルたちのことではなく、これから紡がれる人々と竜の物語を見守る存在というイメージです。
C18-005「滅天竜ラストゼオレム」
Illust. 堀愛里
最終定理(Last Theorem)から。これは分かりやすかったですね。
何者にも止めることのできない、シンプルにして根源的な破壊の力をイメージしています。
腕の周囲を飛んでいるクリスタルは、DNAの塩基配列を元にした螺旋を描いています。
クリスタルが黒くなっているのは、どの色にも染まることができるトゥルードラゴンの性質が黒のリソース寄りになっていることを表しています。
◆ ◆ ◆ ◆
どうでしょうか。予想していた方は当たっていたでしょうか(わかりづれーんだよ、というツッコミはご容赦ください)。
12月15日発売となるEXパック&スターターの魅力を感じていただければ幸いです。
五帝竜やパートナードラゴンだけでなく、アニムスやシエルといった懐かしの面々、そしてこれまで登場したゼクスの関連キャラなど、大盛りに盛ったEXパック&スターターのそのほかのイラストは来週も公開します!
括目して待て!
EXパック 真神降臨編「真竜の戦歌」
スターターデッキ「導きの巫女」
第9回 続「真神降臨編」イラストのお話 (2016.10.12)
ヒロイックサーガ会場で「トレカアイテムくじ 藤真拓哉」のサンプルを展示していたサプライ屋の罠にかかり、「僕はこのくらいの大きさがいいですね」などと絶壁だのたわわだのトークに興じるモザイク齋藤。
巨乳好きをさらけ出すことをためらうナス。ギラつく欲望にさらされてコロッセオに引き出されるZ/Xの会社の拳闘士。
魂無き紳士たちが、ただ己の性癖を賭けて激突する。
次回「でかい」
イベント明けに飲むエナジードリンクは甘い。
みなさんこんにちは。モザイク齋藤です。
前回のユーディのコラムへのご感想のお便りをくださった皆さん、ありがとうございます。
メールでもツイッターでも矢文でも糸電話でも構いませんので、感想はエニデイエニタイお待ちしております。
というわけで前回に引き続き、Z/X最新弾「覚醒する希望」からカードイラストとその裏側をご紹介したいと思います。
今回ご紹介するのは、《死廃の胎動》です。
もうフリーカードで見てますよって方もほとんどだと思いますが、ご存じの通りフリーカード冊子収録のイラストは、通常のカードと判別するために背景がない状態のものになっています。
今回見ていただきたいのは、この背景部分なんです。
そもそも「覚醒する希望」には、各色にデュナミスのウェイカーを表向きにするイベントである《~の胎動》シリーズが収録されています。
イラストはいずれも「ゼクスを覚醒させるカード」ということで各色の人間たちがゼクスとして新生する瞬間を描いていただきました。
例えば赤はブレイバーを再生する培養ポッド、青はバトルドレスの製造工程といった雰囲気のイラストですが、このあたりから各色の未来の科学技術の方向性の違いを感じていただけるといいな、と思います。
緑はホウライともリーファーともつかない、植物に侵食された人類を描いていただいています。
そして、白と黒はZ/XR「ウリエル」と「サタン」にちなんで対になるデザインになっています。
それでは、イラストをご覧いただきましょう。
「精神の胎動」 Illust. まよ
「死廃の胎動」 Illust. 山田J太
両イラストの背景に描かれているステンドグラスには、ウリエルとサタンが描かれています。
これもまた、Z/X世界の未来の姿というわけです。
形は違えど魂の在り方が昇華された二つの未来においては、「信仰」というものがより重要なファクターを占めているのかもしれませんね。
皆さんはゼクスに覚醒するとしたら、どの色の未来にしてみたいですか?
「覚醒する希望」は10月27日発売ですので、ぜひ実際のカードで手に入れてくださいね。
それではまた次回。
第8回 「真神降臨編」イラストのお話 (2016.09.09)
みなさまこんにちは。モザイク齋藤です。
今回は第8回ということで、ってか第7回の短編連作ショートストーリー消えてんじゃねぇかあああ!
担「長すぎたんで^ ^;」
仕方ないですね。
まあ、何本かまとまったらまたどっかにページでも作ってもらうことにしつつ、今回は発売前の「覚醒する希望」から「桜街家執事長 黒薔薇のユーディ」について、ちょこっと裏話などをご紹介しようと思います。
Illust. ねぎ
最新のフリーカード冊子に収録された黒薔薇のユーディです。
強力なサーチ&コスト踏み倒し効果ですでにおなじみのカードですね。
ユーディは初登場となるリーファーのプレイヤー対応カードということで、そのキャラクター性とイラストについては検討が重ねられました。
ラフ段階で数種類の顔の案を挙げていただき、その中から現在のものに落ち着いたのですが、初期のユーディさんはもっと穏やかな優男風の顔をしていました。
なにせ僕の中で執事と言えば1999年発売の某ギャルゲーなもんで、とはいえゴツいオッサンで通称セバスチャンにするわけにもいかず、性格として与えられている「リーファー」「サディスティック」などの情報をもとにざっくりした容姿を決めていく必要があるわけです。
初期段階では現在のエキセントリックな性格ではなく、穏やかスマイルを徹頭徹尾崩さない系サディスティックリーファー執事で行こうかな、と思っていたので優男風だったんですね。
ネットで「執事」で検索して黒くて執事なあの方の画像しか出てこなかったりとかケータイ会社のヒツジが出てきたりとかで四苦八苦しつつ指定を作り、ねぎ先生に挙げていただいた案の中から喧々諤々した結果、現在のようになったわけです。
で、次は髪の色です。リーファーの髪の色は実はほとんど規定がなく、ピンク色だろうが金髪だろうが好きにできちゃうんですね。
みなさんは、キャラクターの髪の色って普段意識されるでしょうか。髪型や髪の色、目の色、服の色など「色」の要素はそのキャラクターの見た目の性格を決定づけるポイントです。
近年のアニメやゲームではいわゆる現代ものは「黒、茶、金、銀」をベースにして、昔ほど髪の色でキャラクターの個性を出す手法は取られないのですが、キャラクター情報が少ないカードゲームにおいてはよりインパクトの強い色にすることでキャラクターの個性を出していくことも多いのです。
さてユーディはというと、最初は金髪、オレンジ系などのかなり明るい色を使っていました。
明るい色はキャラクターの性格の明るさや開放的な感じを出し、親しみやすい印象を与えてくれます。
紗那は髪が白よりの緑ということで、こちらは穏やかで純粋なイメージですので対比になるような具合にしてみたんですね。
ところがどっこい、ここでデザイナーカナコス氏からNGが出ました。
確かに紗那と一緒に千の罠を用意するサディスティックな性格に親しみやすさは無用、ということで威厳があるイメージの黒をベースに執事としての沈着冷静さ、穏やかさを出すために緑系に変更しました。
イグニッション放送局24hSPではカードのデザインを1から行う企画を行いましたが、イラストもこのようにして変更を繰り返しながらカードになっていきます。
今週末のゼクストリームでは皆さんに新しいイラストを発見していただく企画もご用意しておりますので、振るってご参加ください。
それでは、お読みいただいた皆様とイラストレーター様に感謝しつつ、また次回お会いいたしましょう。それでは。
第7回 Z/X THE FIEND REBIRTH(#7) (2016.07.12, 2016.07.13, 2016.07.14)
みなさんこんにちは、モザイク齋藤です。
トレーディングカードゲームのカードには、名前があり、イラストが描かれ、ゲームテキストがあり、フレイバーテキストがあります。その一枚一枚に物語が存在し、広い世界を形成しています。
今回のショートストーリーは、そんなカードに込められた物語の欠片です。
短期集中連載の第一回、1人のゼクスの、始まりと再誕の物語を、どうぞお楽しみください。
鬼の童子の現れて舞へ
空中を銀が閃き、続いて鈍い金属音が断続的に響く。暗い森の中に建てられた御殿の中、板張りの部屋を2人の影が舞うように動く。
一人は壮年の男。赤い鎧に身を包み、直剣を振るう。鍛え上げられた身体は鎧越しにもそれが伝わるほどで、長身と相まって威圧的ですらある。反面、切りそろえた髭は精悍な男の面構えに柔らかい印象を与えてもいる。
もう一人は年若き女。緋袴に烏帽子を纏い、額に白く美しい角を持つ「鬼」。身の丈ほどの直剣を流れるように振りながら相手の剣を受け流す。
打ち合うこと二百合、しかし、お互いの動きは一向に鈍らない。鬼姫が神通力で籠や薄畳を投げつけるが、男もそれを切り払う。男が剣を投げたかと思うとそれが嘴鋭い大鳥に変化し、あらぬ角度から相手を襲う。ならばこちらもと鬼姫の剣が鷹に変じてそれを迎え撃つ。ぶつかり合った鳥たちが弾けるように剣になり、お互いの手に吸い付くように戻った。
「噂に違わぬ武勇だな、立烏帽子!」
疲れを感じさせぬ、男の快活な声が響く。表情もどことなく嬉しそうに見える。
「……あなたの方は過大評価みたいね、田村丸」
立烏帽子と呼ばれた鬼姫は、表情を変えずに静かに言う。
「がっかりさせたなら謝ろう。だがそうだな……ここからは俺も全力を出そう。そして俺が勝ったら、夫婦になってくれ。お前のように勇ましく、美しい者は初めてだ」
はっはっは、と照れ臭そうに笑う田村丸に、立烏帽子は少したじろぐ。
「気は確かなのかしら。私は鬼であなたは人。私を討伐しに来たのでしょう」
「それを言うなら俺も人と龍の子だ。それに、お前の美貌を見れば誰も文句など言うまい」
田村丸への返答は、小さなため息が一つ。それからあきれた声で、
「いいわ。その話乗ってあげましょう」
「ほう」
剣を構えなおす田村丸の前で、立烏帽子は腰から二刀目の剣を引き抜いた。
「覚えておくといいわ。唐天竺にて阿修羅王より授かりし三宝剣が二つ、大通連と小通連。これからあなたを叩っ切る剣の名前よ」
瞬間、二人の姿が疾風となった。
◆ ◆ ◆ ◆
ここはどこだろう。まぶたの向こうから、うっすらと緑色の光が差し込んでくる。長い夢をみていたように感じる。生まれたばかりというのはこんな感覚なのだろうか、手足が自分のものではないような、少しギクシャクした感じがある。貼りついたかのように、目を開くのが億劫だ。
「……目が覚めたか?」
目を開くと、白髪頭の男が立っていた。白い袴のようなものを羽織っているが、中には黒い服を着こみ、首元から赤い紐を垂らしている。不思議な格好だ。顔には銀の装飾に玻璃がついたものを付けている。
「しばらくは身体が慣れないだろう。そこから出たらリハビリが必要だな」
言われて、自分の状態を認識する。なんだかぶよぶよした水の中に裸で沈められているようだ。息はできるし向こうの声も聞こえる。手足も動くが、水に阻まれて機敏には動けない。男はにやにやとその様子を観察すると、部屋を出て行った。
(ここは……地獄ではなさそうね……だとしたら、この男か誰かが反魂の術でも使ったのかしら……)
田村丸――俊宗はどこだろうか。もしかしたら、近くにいるのではないか。もがくように水の中で動くと、透明な壁にあたった。なるほど玻璃の筒に水を満たしてその中に閉じ込められているようだ。出汁でも取られている気分になる。
丹田に力を込めて、それを右腕に動かしていく。指先で紫電が起こり、水が弾ける感覚があった。神通力は健在のようだ。
(大通連、小通連!)
それは間もなく、二羽の小さなスズメとしてその場に現れた。彼女の前に降り立った鳥たちは、それぞれ直剣に変化する。
(破れ!)
二本の剣は宙に浮くと、石突をガラスにたたきつけ始めた。1発目でヒビ、2発目で亀裂、3発目でガラスは粉々に砕け、水が外に流れ出した。
ガラスを踏まないようにしながら外へ出ると、不意に男の声が響いた。
「やれやれ、一糸まとわず大暴れとは、日本のお姫様は変わっているな」
振り向くと、金色の髪に青い瞳、赤い衣装をまとった男が立っていた。優男風の顔だが、見上げるような長身が威圧的でもある。
B06-005「お調子者の三銃士ボルトス」
Illust. 犬島万州
「あいにくと生まれは天竺なものでして」
「ヒュー、そうなるとインドの方になるのかな。神秘とスパイスの国だ。ほら、とりあえずこれで身体を拭いて、次はこっちを体に巻いておくといい」
男は刺繍がされた薄い布きれと、着ていた上着を投げてよこした。いそいそと身体のべたつきをぬぐい、上着を羽織る。かなりぶかぶかだが、ないよりはマシだろう。
「似合うとは言いがたいね。今度キミに似合うドレスを探しに行こうか」
「“どれす” が何か知らないけれど、余計なお世話です。もう行かなくては」
剣を抱えて出ていこうとすると、男が目の前に立ちはだかる。
「失礼お姫様、あなたをここから出さないように言われてましてね」
返答には、ため息を一つ。それからあきれた声で、
「言われてとどまるとでも?」
大通連を引き抜くと、重さで身体が少しふらついた。神通力で手足を支えて立つ。待っていたかのように、相手も剣を抜く。針金のような、剣というにはいささか細すぎるそれを、男は神速で突き出した。
火花が散る。
続
たださばかりを契にて
汗衫を着た少女が、向こうからぱたぱたと歩いてくる。色白の可愛らしい顔に満面の笑みを浮かべて、少女はぎゅっと抱き着いた。
「母様、見てください。大きな蜻蛉が!」
抱き着かれた方は、母というにはいささか若く見える女性。長い黒髪と、少女に似た白い肌。額には、白く美しい角。広い庭を飛ぶ蜻蛉を指して笑う少女の髪を、優しく撫でる。
「そうしていると、まるで姉妹のようだな、立烏帽子」
御殿の方から快活な男の声。簾の向こうから背の高い、髭をたくわえた丈夫が現れた。
「鬼は寿命が人とは違いますからね……」
薄く微笑む、その柔和な表情には男と出会った頃の凛とした張りつめた空気はない。
「妻がいつまでも若く美しい、俺も鼻が高いぞ」
笑う俊宗を見つめる立烏帽子の視線が、右手に持たれた剣に移る。
「……俊宗様、また戦へお出になるのですね」
「そうだ。民のためにも彼奴を、大獄丸を討たねばならぬのだ」
俊宗も笑みを浮かべ、ゆっくりと諭すように言う。
「私も一緒に行かせてはもらえませんか。剣の腕は鈍ってはおりません」
「ならぬ。りんとともに、俺の帰る場所を守っておいてくれ」
そう言って、俊宗はいつも申し訳なさそうな、悪戯を咎められた子供のような笑みを浮かべるのだ。
◆ ◆ ◆ ◆
「神通力というのは便利なものだな。剣も銃も使わずに敵を制圧できる。しかもマーリンのような魔術の言葉を発する必要もない」
北日本の深い森の中、銀の鎧を纏った男が低い声で言った。銀髪に青い瞳で、遠目にはまるで銀色の塊にも見える。
「それが誰かは知りませんが、意志の弱い者であれば無駄に争う必要はありませんので」
銀色の男の声に、黒髪の少女が応える。袿を纏った年のころ12歳くらいの少女は、名を鈴鹿御前と言った。
「しかし張り合いの無い。緑の世界に未来が傾くなど考え難いな」
男は具足の爪先で、足元に転がったリーファーの頭を小突く。
「ずいぶんと敵を見くびるのですね、ランスロット殿。草人たちはいいとしても、ホウライという武士たちは石竜と渡り合ったと聞いたでしょう。足元を掬われますよ」
少し強い口調で返す御前に、銀髪の男、ランスロットはフンと鼻をならした。
B03-009「九大英雄ランスロット」
Illust. 小林智美
「確かに、三銃士ごときに叩きのめされた者が言うと説得力があるな」
「なんですって!」
怒りに任せて神通力で枯れ枝を投げつけると、ランスロットはそれを盾で払う。
「我々の任務はこれで終わりだ。あとは軍の連中が始末をつける。野営地へ戻るぞ」
ランスロットの声に、周囲にいた数人のブレイバーが集まってくる。装束も人種もバラバラで、如何にも寄せ集めといった集団に見えた。
森の中の廃寺に作られた陣に戻ると、すでに日は落ちて木々の隙間から月光が差し込んでいた。軍が作った食事が振る舞われ、戦士たちは各々に休息をとっている。最初の頃抵抗があった、やたらと薬味が入った辛い料理には段々と慣れてきた。それにしても、この時代の食事はやたらと味が濃い。木でも鉄でもないものでできた折り畳みの長椅子に腰掛けながら、御前は一人、ため息をつく。
「――お見事でした、鈴鹿姫」
食事の碗を持った、赤い豪奢な着物を着た女性が御前に声をかけた。少しツリ目気味な顔には、自信が感じられる。
「あなたたちが進路を切り開いてくれたからですよ、甲斐姫。私は剣を抜いてすらいませんもの」
B06-003「北条の戦姫 甲斐姫」
Illust. 匈歌ハトリ/工画堂スタジオ
「ご謙遜されないでください。お隣、よろしいですか?」
どうぞ、とうなずいたその横に甲斐姫が腰掛けると、二人は黙々と食事を済ませる。お茶で口の中を洗い流すと、甲斐姫は鈴鹿姫の方に目を合わせた。
「鈴鹿姫、田村将軍俊宗様の行方は分かりましたか?」
甲斐姫の問いに、御前は首を横に振った。
「あの男は何も。ランスロットにもそれは答えられないとだけ。本当に私たちのように黄泉還っているのかも教えてもらえませんでした」
そうは言いながらも、いないはずがない、と彼女はどこか確信のようなものを持っていた。300年前の再会の約束が果たされるとすれば今世しかない。赤の世界の指示に従っていればいずれ巡り合うだろう。300年を思えばそのいずれなど一瞬に過ぎない。運命は巨大な川の流れのようなものだ。山から海へ至るまですべての物事は紐づいており、鈴鹿御前の目覚めは約束の糸をたどって俊宗に繋がっている。
「俊宗様にお会いできる日は、そう遠くはないと思います。あちらも私を探しているはずですから」
「田村丸様を信頼されているのですね」
「夫婦ですからね」
ない胸をそらし、ちょっと自慢気な表情を浮かべる。俊宗のことを話す鈴鹿御前は尻尾を振る子犬のようで愛らしい、とは同行している詩人騎士の弁だ。
それから二言三言話して、甲斐姫は先に陣に戻っていく。一人になると、少しだけ寂しさが浮かび上がってくる。
B17-008「別離の鬼姫 鈴鹿御前」
Illust. ふーみ
「俊宗様とのお約束、今世にて果たせるのでしょうか……」
見上げる月は、かつてと変わらぬ銀色の光を投げかけてくる。
さて俊宗と再会できたとで、まずどうすればよいだろう。なにせ300年ぶりだ、最初に何を言うかくらいは考えておいた方がいいかもしれない。
寝所でゆっくり考えようと、ゆっくりベンチから立ち上がったそのとき、背後から爆音と炎が噴出した。
振り向いたその眼が、大きく見開かれる。燃え上がる木々やテントを無視して、ただ一点を見つめる。
「久方ぶりよの。逢えて嬉しいぞ立烏帽子ぃ!」
灰色の肌と、額から生えた2本の角。鎧に奇妙な印を刻んだ “鬼” が、そこに立っていた。
続
つひには野辺の霞と思へば
錆びた鉄のような匂いが、畳を敷いた広い部屋に充満していた。少女が纏っている赤い豪奢な絹の着物は、より黒い緋が飛び散ってまだらになっていた。その額に生えた角だけが、真珠のような純白に輝いている。
時折、近くの部屋からぼきり、という音とカラスの鳴き声のような悲鳴が聞こえてくる。少女の眼前には、恐怖に怯え、錯乱した男が一人。もとは豪奢だった男の着物は自らの汚物と涙と血にまみれ、見るも無残だ。声ならぬ声をあげ、逃げようともがき襖を引っ掻いている。少女は腰に下げた大剣を引き抜くと、無表情にそれを振り上げた。
襖が真っ二つに吹き飛ぶ。続いて、男が這いずるようにそこから外へ逃げ出した。
「……早く、遠くへお逃げ」
男が庭の先へ見えなくなったころ、部屋の外からの悲鳴が止み、倒れた襖を踏み抜きながら灰色の肌の巨漢が現れた。男の額には2本の角が生えており、禍々しい雰囲気を醸し出している。
「なぜ奴らを殺さなかったのだ、逃がせば都からワシらを殺しに人間どもがやってくるぞ。そうすると、また奴らを殺さねばならん」
少女はため息を一つ。
「殺せばよいのでは? 今日のように。向こうからこちらへ来るなら手間も省けましょう」
「分かっておらんなぁ。この国はいずれ我らが領土となる。だが、それを2人で統治するのは不可能というものだ。畑を耕す者もいれば、逆らう者を殺す者も必要となり、彼らを従わせるにはモノの順番というのが大事になる。王になるには力があればいいというものではないのだ。第一、お前はワシの妻になる女だ。余計なもめ事で死なれては困る」
「またその話ですか……」
少女からすれば、男の存在は夫というより親兄弟に近い。こうして大和の国を征服するべく共に旅をしてきたものの、それ以上の情は感じた事がなかった。
「近々、ワシは他の鬼に会うために北へ向かう。北には鬼が多く住んでおるらしいからな。お前は西へ向かい、京で動きがあればワシに伝えるのだ」
その後しばらくして、奪った金銀を携えた2人は北と西へと別れた。少女は伊勢国の山へ、男は北へと向かった。
◆ ◆ ◆ ◆
細くねじくれた腕に赤い皮膚、額に角を生やした悪鬼たちが、松明を手に森に火をつける。まるで夕焼けのような鮮やかな赤が、徐々に徐々に広がっていく。
「どうした、嬉しくて声も出ぬか。それとも、ワシのことを忘れてしまったか」
小枝を踏み折りながら、見上げるような巨躯がこちらに近づく。灰色の皮膚に、額に生えた2本の角。
「なあ、鈴鹿の姫よ。あの男とお前がワシを罠にはめたあの日のことを、ワシは地獄でずっと想っていたのだ」
震える足は、鬼が起こす地響きか、それとも恐怖からか。
「すぐには殺さん。あの男をつり出すために、お前には生きていてもらわねばならんからな……」
その丸太のような腕が振り上げられ、ごうという音とともに少女に襲い掛かる。
「よけろ御前!」
声と衝撃はほぼ同時。突き飛ばされて草の上を転がり、上げた顔が見たのは銀の鎧。鎧の主は、輝く剣で次々に繰り出される拳を受け流していく。
「銀の剣に銀の鎧、キサマが湖の騎士か」
「如何にも。大獄丸よ、お前は征西へ回されていると記憶しているが、西と東も分からぬほどに耄碌したか? それに、その鎧の紋章はなんだ?」
問いに、悪鬼はにやりと顔を歪ませる。
「色狂いで道を外れた者に答える義理はないのう」
言葉に、わずかにランスロットの剣戟が緩む。その隙を見計らい、剛腕が鎧に叩き込まれた。身体が宙を舞い、派手な金属音を立てて地面に叩きつけられた。
「ランスロット殿!」
呼びかける声に、騎士は剣を杖に片膝で立ち上がる。
「……ここは退け、鈴鹿御前!」
ランスロットの叫ぶような声で、少女は姿なき束縛から放たれたように、その場に背を向けて走り出す。今の自分の状態では、大獄丸を倒すことなど不可能だ。いつか、ではない。一刻も早く俊宗を探さなければ。
「教えてやろう、湖の騎士。所詮はワシもお前も己の為に生きる、同じ穴の狢よ。都合のいい力に、欲望にすがりつき、それを隠そうともしないだけのなぁ。ワシは阿修羅王への義理を捨て、真なる神の力によって田村丸への復讐を果たすのだ」
大獄丸は背中から無骨な、青海波のような彫り物が施された剣を引き抜いた。
「ランスロット、力が欲しいと思わんか。奴を殺せば、お前は円卓を統べる者になれる。王女の想いも、手に入るぞ」
大獄丸が、誘うように剣の先を揺らす。ランスロットはゆらりと立ち上がると、瞳を閉じて剣を構えなおした。燃える森の光が剣と鎧に反射し、身体中が燃え上がっているかのように見える。
「私が仕える主君は一人だけだ、悪鬼よ」
瞳が、ゆっくりと見開かれた。
「我が二つの罪、その重さはあらゆる欲望に勝る。それを教えてやろう」
B08-017「ダブルクライム」
Illust. 萩谷薫/工画堂スタジオ
瞬間、銀の爆風が二重に巻き起こった。
続
君の話
暗い部屋に敷かれた寝袋の中で、君は物音に目を覚ます。時刻は20時。放棄された集落に入り、眠りについたのは18時ごろ。赤い光が窓から差し込み、鼓動が少し早くなる。
君は寝袋から這い出ると、窓の外を見やった。遠く、裏手の山から炎が上がっているのが見えた。炎だけではない。時折爆発が起こり、黒い煙が上がる。
慌てながら、寝袋を丸めてリュックに縛り付ける。リュックは途中で手に入れた水分と食料でとにかく重いが、今は文句を言っている場合ではない。靴ひもを縛り、最後に、ポケットに入れたカードデバイスを確かめて君は部屋を出ていく。
予定ではあと5日ほど歩き続けて関東に入り、そこからさらに西へ向かい、家族と合流するはずだった。デバイスは出発前、自衛隊の横流し品を巫女服の奇妙な少女から買ったもので、まだそこにゼクスは入っていない。見せればごろつきの類が逃げていくので役に立っている。
君は事態を確かめる余裕もなく、階段を下りてボロボロの廊下を通る。そこで、自分以外の気配に気が付いた。
恐る恐る居間の襖を開ける。ガラス戸が開き、畳の上に豪奢な着物を纏った少女が倒れている。傍らには2本の剣。少女の顔は美しく、その額には白い角が生えていた。着物には草や土がついており、汗をかいた額に黒髪が貼りついていた。
ふいに、金切り声のような奇妙な音が外から聞こえてきた。それは何か、会話でもしているようでキィキィ、キィキィと断続的に発されている。君は、おそらくZ/X同士の戦いが起こっているのだと察する。目の前の少女が何者か分からないが、落ち着いた後で聞けば済む話だ。
君はポケットからデバイスを取り出し、静かにつぶやく。「キャプチャー」と。
世界は君に優しくない。君は目の前の異形と戦う力もなければ、誰かを守る大義があるわけでもない。でもそれは、昨日までの話。
運命は回り始めた。
Z/X THE FIEND REBIRTH END
第6回 Z/XR ディンギル クロスレビュー (2016.07.08)
みなさまこんにちは。モザイク齋藤です。
今回は毎度おなじみとなったクロスレビューの特別篇としまして、今月末に発売の迫った新弾「裏切りの連鎖」に収録される、Z/XRのディンギルたちを中の人がレビュー!
ばっさり切ったり切らなかったりするコメントをお楽しみください。
B17-101「昇熱の『壊做』ナナヤ」
B17-102「氾濫の『命慟』ティアマト」
B17-103「無尽の『創造』ルル」
B17-104「不撓の『誓約』ザババ」
B17-105「豪胆の『陽燦』シャマシュ」
総評
イグニッション久保田
「神域との邂逅」で登場した「ディンギル」とは異なる色の組み合わせの5枚が今回「裏切りの連鎖」で登場しました。すべての色の組み合わせが揃ったことによって、今まで以上に様々なデッキを組むことができるようになっています。是非とも新しいカードを手に、新たなデッキにチャレンジしてください!
なるほどナス
今回のZ/XR[ディンギル]は「男神がパワー10500で手堅い能力」「女神がパワー低めで能力が強烈」といった印象です。ナナヤはパワフルですが……「神域との邂逅」も含め「デュナミス」の構築幅が大きく広がったので、これから様々なデッキが生まれてくるのが楽しみ! とりあえず「氾濫の『命慟』ティアマト」でデッキを4個程つくります。
モザイク斎藤
青絡みのディンギルは手札入れ替え、緑絡みは除去とコストブーストと大別できる今回のディンギル。白黒のルルはスターター「純白の双翼」バージョンと能力が異なるので、デッキに応じて枚数を調整したいところ。どのディンギルに信仰を奉げるのか今から考えておきましょう。
第5回 【やってみた】POPコンテストやってみた【POPコンテスト】 (2016.06.30)
みなさまこんにちは。モザイク齋藤です。
WIXOSSとのコラボイベント第一回、名古屋での開催が週末の7月3日(日) に迫っています(岡山のヒロイックサーガも迫ってますが)ので、コラボイベント内での新コーナー「手書きPOPコンテスト」をブロッコリー社内でも開催してみました。
ブロッコリー社員の渾身のPOPをお楽しみいただくとともに、POP選手権ご参加の参考にしていただければと思います。
No.1 イグニッション久保田
誰が描いたか一目瞭然ですね。
強い上にイラストも描けるとかずるくないでしょうか。みんなでやろうぜ!
No.2 モザイク齋藤
僕です。飛鳥くんのイラストを描いてみました。
みんな、純白の双翼は買ったかな?
No.3 デザイナー八ッ塚
Z/Xいちばんのポイントであるフリーカード冊子をアピール!
筆字風でシャレオツ(死語)です。
No.4 なるほどナス
シンプルですね。売っていることがひしひしと伝わってきます。
なぜ先輩後輩なのでしょうか。宇宙を感じます。
No.5 営業アラマキ
デュエルスペースをアピールしています。
Z/X関連であればサプライなど製品以外をアピールしてくれても大丈夫です。
No.6 SB山本
お、現状では最もPOPっぽい。
女の子のイラストは店頭でも目立ちますね。
No.7 制作メンバー1
本当にショップに貼ってありそうなPOP。
「ズィーガー♪バケーション」がズィーガーのカードなのか綾瀬のカードなのかは意見が分かれるところです。
No.8 制作メンバー2
高いクオリティで描かれた千歳とあづみがかわいい1枚。
描き文字も大きく、遠くからも目立ちますね。
No.9 アライ画伯
モ「アライくん、POPコンテストのコラムを書くから1枚書いてよ」
ア「いいですよ(神域のパックを見ながら描き始める)」
モ「(いろいろこらえながら)……キャッチコピーも書いてね」
ア「えーと、『神域との邂逅』発ば……発発って書いちゃいました」
モ「ブフォ!(腹筋が耐えきれず崩れ落ちる)」
◆ ◆ ◆ ◆
以上、いかがだったでしょうか。
POP用のシートは、イベントの詳細ページからダウンロードもできますので、事前に練ったPOPを作ってもOKですよ!
みなさまの力作をお待ちしています!
第4回 獣人ウェアアカパンダ (2016.06.09)
皆さまこんにちは。
Z/Xでイラスト指定やカード名などを主に担当しているモザイク齋藤といいます。
ただいま、真神降臨編「裏切りの連鎖」のページ内で収録カードのイラスト公開企画を行っています。
そのうちのひとつとして用意していた1枚に対する解説が、コーナーのフォーマットを大幅に逸脱してしまったため、こちらのコラムで紹介したいと思います。
◆ ◆ ◆ ◆
注意:当コーナーに掲載されている画像の転載を禁止します。
こっからはちょっと真面目な話を(これまでも真面目でしたが)。
真神降臨編「裏切りの連鎖」のカード名称やイラストの指定を作る際に気を付けたことがいくつかあるのですが、その一つに「別のキャラクターに関連したキャラクターを作る」ことは強く意識しました。
トレーディングカードゲームはタイトルにもよりますが、1つのカードセット内に50~100体近い新キャラクターが登場します。そうすると、一人一人のキャラクターをピックアップすることが非常に難しいジャンルになるんですよね。キャラクターを表現するのはカードのイラストと名称、フレーバーテキストと能力値とルールテキストのみ。そこから無限にストーリーが広がるとも言えますが、1枚に記載できる情報はごくわずかです。
カードに記載された情報を使い、主人公たち以外のキャラクターたちにも個性や人間関係といった奥行きを与えることが、「別のキャラクターに関連したキャラクターを作る」目的です。イラスト公開でご紹介している英雄達の戦記結果反映カードを始めとして、例えば時代の違う三国志の人物が出会ったらどうなるだろう、とか、かつて竜側の人物に関係していたあのキャラクターが神側についたら、とか、アリスがいるならアカズキンもいるでしょ、とか。いわゆるカップリングも、多角関係も織りこむことで、そこに特定のキャラクターが描かれていなくても、他のキャラクターを感じることができる、そういうカードを作ることを目指しました。カード名にディンギルたちの二つ名を入れたのも、そうした試みの一環です。皆さんにも、それぞれのカードの関係などを想像してキャラクターを好きになっていただければ幸いです。
このあたりはすべてのカードが公開されてから、このカードとこのカードはこうなんだよってな話もできたらと思います。それではまた、次のコラムでお会いしましょう。
第3回 金色の猫の話(#6) (2016.05.30)
皆さまこんにちは。
Z/Xでイラスト指定やカード名などを主に担当しているモザイク齋藤といいます。
モザイク齋藤とゼクスの交流をレポートする不定期連載ショートストーリー、
今回は通算第6話となります。
引き続き、こんな話が読みたい、といったご要望やご感想は、
私のツイッターアカウント(@MozaicB)までお寄せください。
また、あんまりSSが続きすぎてもなんなので、近々第17弾の最新イラストをお見せしつつ、
僕が内情をつまびらかにできると思いますのでそちらもお楽しみに。
◆ ◆ ◆ ◆
ブラックポイントの出現以来、場所によっては戦いの被害がひどく、郊外に出ると車もまともに走れない。神戸のように復旧が早いところもあれば、放置されてしまったところも多い。取材で遠出することも多いけど、誰もいない町を見るのは本当につらい。
ぜーはー言いながらミニベロのペダルをこぎ、住宅街の坂道までたどり着く。態度はぶっきらぼうなマンチカン氏だが、戦闘の真っただ中には派遣されないし、こうして移動手段をどこからか用意してくれることすらある。ありがたい先輩だ。
ミニベロを標識にチェーン止めしてから、舗装の荒い坂道を登り始めた。道端の自販機から賞味期限切れのコーヒーが出てくるあたり、早い時期にこの町が見放されたのだとわかる。暗くなる前に帰れるといいのだが。
カメラを取り出し、町の様子を撮る。ブラックポイントから離れているが故に外観はキレイだが、庭木や生け垣が伸び放題になっていた。夏の気配が首筋を焦がす。
「ねぇねぇ、なにしてるの?」
ファインダーに集中していた僕は、その気配にまったく気づくことができなかった。わっと声を出して、カメラを取り落としそうになる。
ちょっとクセっ毛の金髪ロング、緑色の目と同じ色のパーカーにチェックのミニスカート。ピンと立った猫耳と長い尻尾は、少女がライカンスロープであることを示していた。パッチリとしたドングリ眼が瞬き、こちらを見上げている。害はなさそうだ。
新聞の取材だよ、と渡す名刺には、僕の名前が日本語、英語、ケット・シーたちの暗号で書かれている。名刺を受け取った少女は、不思議そうな顔でそれを見つめた。
「サイトーさん、って言うんだ。あのあの、新聞にアタシのっちゃう?」
キラキラとした瞳に、たぶんのらないんじゃないかなあ、と返すと、猫少女は「つまんないの」とちょっと頬を膨らませた。
「ま、いいや。じゃあじゃあアタシと遊ぼ?」
向こうもこっちに害がないと察したのか、手をとってぶんぶんと振られる。いかん、いらぬ勘違いをしそうになるじゃないか。おへそもチラチラしてるし。
「どしたの?」
どうもこうもしないけど仕事があるからね。そういえば、とそれとなく僕の目的地について尋ねてみると、「案内してあげる」、と申し出があった。といってもこの坂を上るだけのはずではあるが、一人で歩くよりは退屈せずに済むか。
「じゃあ、競争だね!」
案内とはなにかを問う暇もなく、脱兎、いや脱猫の速さで駆け出していく。疲れた体に鞭打って必死に追いかけていくと、途端に開けた場所にたどり着いた。
「着いたよっ! それと、アタシの勝ちだね!」
ぴょんぴょん跳ねながら喜ぶ姿を見ていると、こちらの疲れも少し軽くなるような気がした。
そこは、少し大きめのお寺だった。建物の半分以上が崩れていることを除けば立派なものだ。争いのさなかに新聞社ができる取材は限られている。すなわち士気高揚だ。先日ここであったエンジェルと黒の世界のゼクス使いとの交戦をネタに、一筆書けというのが僕への仕事内容だった。だがそんなことは、猫少女の次の言葉で吹っ飛んでしまう。
「ここにね、ごしゅじんのお墓があるの」
お墓?と問うと、少女は寺の敷地に入っていく。裏手には、段々畑のように墓石が並んでいた。
「ここだよ」
キレイに掃除された墓石には、手のひら大の板――カードデバイスが供えられていた。手に取ってみると、それがすでに機能を停止していることがわかった。別に、彼女はコレに縛られているわけではない。それがいつの話なのか、どういう経緯なのかは分からないが、なんにせよ彼女と共にいたゼクス使いがここに眠っているというのは事実のようだ。
本人はどうしたいのだろう、と思うけれども。でも、実際問題こういう場面に一人で結論を出せる者は少ないとも思う。寂しくて、辛くて、決断してくれる誰かにそれをゆだねたいという気持ちになるものだ。
一緒に来ない?という僕からの問いに、しかし予想外に、彼女は首を横に振った。
「そろそろ森に戻るころかなって、アタシも思ってたし。でも、また遊んでね?」
やれやれ、気まぐれなものだ。
手を振って、緑の風のように消えていく後姿を見ながら、はて僕はこれからどうしようと自問していた。
第2回 神様の話(#5) (2016.05.16)
皆さまこんにちは。Z/Xでイラスト指定やカード名などを主に担当しているモザイク齋藤といいます。
イベントや通販にて販売していました公式同人誌「Z/X Activate!!」掲載の小説が思ったより好評でしたので、
こちらのコラムやTwitterにて不定期に連載していきたいと思います。
こんなZ/Xの話が読みたい!
といったご要望やご感想は、私のツイッターアカウント(@MozaicB)までお寄せください。
※これまで公式同人誌で3本、ツイッターにて1本掲載しておりますので、
唐突に5話から始まりますがご了承ください。
◆ ◆ ◆ ◆
僕が生まれるより昔、「僕は神様より有名だ」なんて言ったロックスターがいたそうだ。そいつは銃で撃たれて死んでしまったが、3日後に生き返ることはなかった。
世間では、ディンギルとかいう本物の神様が話題になっている。日本人のご多分に漏れず初詣もクリスマスもハロウィンもエンジョイする家で育った僕だが、得体のしれない本物の神ってのには不信感がある。
とはいえ、延々と続く戦いに疲弊した人々が何でも願いを叶えてくれる神様に頼ってしまうのもまた事実。そんなディンギルに関わる集会があるというので、僕は新聞社からそう離れていない商業ビルの貸会議室を訪れていた。
「はーい! 先ほど説明したこの《神域の鳥から作られた最高級フワフワ布団》がニャんと今なら120万円! これを購入できるのは幸運な3名様にゃ! さあ、購入希望者は手を挙げて!」
先ほどの《神の嵐を内蔵した高級掃除機》のときにも手を挙げていた、黒い毛並みの紳士風ケット・シーが手を挙げる。それに続いて周りの参加者も「私も私も!」と手を挙げる。なんだろう、僕もあの布団が欲しいような気分になってくる。うちの新聞社は薄給だからなー。いったいどんな寝心地なのだろう……。
いやいやいや。明らかな詐欺の現場じゃないかこれは。危うくだまされるところだった。
「そこのカメラマンさん、ご購入者のしあわせそーなお写真をしっかり写すにゃ!」
うさんくさいケット・シーが、張り付いた笑みを浮かべて招き猫のように手をクイクイ、呼ばれた僕も仕方なく写真を撮る。続いて、4本の矢印が時計のようにクロスしたマークの、みょうちきりんなツボが出てきた。
「さあ、お次はこの願いが叶う神様のツボですにゃ!」
付き合いきれん、と僕はこっそり会議室を抜け出す。トイレの横の自販機でコーヒーを買うと、横から大きなため息が聞こえた。
見れば、灰色トラ縞模様のケット・シーが神妙な面持ちでソファに座り、コーヒーをすすっていた。
「にゃーにジロジロ見てるにゃ?」
「ああ、いや、特に意図はないけど、落ち込んでるみたいだったから」
鋭い眼光に気圧されながら、僕は彼の横に腰かけた。
「世の中、神も仏も信用ならんにゃ。アジト再建の資金集めで神様に頼った挙句に、布団売りやら射的屋やらのダセエ仕事。もうやってられんにゃ」
「いやまったく同感だね。僕も再婚したいとは思うが神頼みだけは勘弁だ。それがどんなに力があったとしても。幸運ってのは色々な積み重ねの上に乗っかるボーナスみたいなもんでさ、他者からポンと与えられるもんじゃないよ」
「そうだにゃ……足抜け金も用意して、あとはボスに切り出すだけにゃんだけどにゃ……」
よほどボスとやらが怖いのか、彼は大きな瞳を少し潤ませているようにも見えた。
「まあ、とはいえ生きてりゃいいこともあるさ」
毒にも薬にもならんことを言って僕が立ち上がろうとしたその瞬間、ドタドタと複数の足音が廊下を揺らした。目の前を、スーツを着たケット・シーたちが駆け抜ける。先頭を行くのは、取材先でも見たことのある太った刑事ネコだ。
続いて、会議室の中から「ガサいれにゃ!」「全員動くにゃ!」「うちのカミさんがね……」とか声が聞こえてくる。隣のトラ縞くんを見ると、ぽかんとした顔で廊下の向こうを見つめていた。
「……幸運ってのは、あるもんだにゃあ」
そういうと、彼はきびすを返して出口へ駆け出す。逆光に照らされた彼の姿を見送って、僕は事件現場の取材へ向かったのだった。
第1回 コラム、はじまります! (2016.04.08)
みなさまこんにちは。株式会社ブロッコリーのモザイク齋藤です。
今回から新しく始まりましたこのページでは、Z/Xにまつわるあんな話やこんな話を
Z/Xをつくっている中の人からご紹介していきます。
デッキやコンボ、大会結果の紹介などゲームの内容に関わるところのほか、
1枚のカードに込められたキャラクターのストーリーやバックグラウンド、
新しいカードの話やZ/Xを始めるにはどうしたらいいか、イベントやサプライの話などなど、
Z/Xの魅力をより掘り下げてご紹介できればと思っていますので、お付き合いください。
こんな記事が読みたい、といったご要望はモザイク齋藤の
ツイッターアカウント( @MozaicB )宛てにリプライをいただればと思います。
今回はご挨拶だけ、というのも寂しいので、
4月21日に発売になります最新弾「神域との邂逅」から、
カードを2枚ご紹介したいと思います。
結婚式の飾りでも見かけるマートルのリーファー。儚げで美しい1枚です。
もともと神に捧げる花でもあることから、ディンギルと相性のいいカードになっています。
「研究する」という名称でパワーが上がっているところなどは「知は力なり」という感じでしょうか。
登場するだけで能動的に[Lv]を上昇させつつ攻撃をしていけるゼクスなので、
ディンギル中心のデッキに無理なく入ります。
《八宝美神フリージア》などで使いまわしていきたいところですね。
彼女の左腕にイシュタルの印章が刻まれているように、
ゼクスの中でもディンギルたちに与する者にはその証が顕れています。
突如現れたディンギルとは何者なのか、彼らの目的とは?
主人公たちはどうなるのか、「神域との邂逅」をゲットしてみなさんの目で確かめてください。
「神聖な愛」「信じる心」などの花言葉を持つパッションフラワーのリーファーも、
やはりディンギル側についたゼクスの一人です。
(とはいえ本人は神の力をイタズラに使うつもりのようですが……)
マートルと同じくイシュタルに仕えるパッションは、《紅葉狩り》に近いリソース増加+ドロー能力です。
[イシュタルLv3]と能力達成は終盤になりますが、実質リソース+1、手札+2枚と非常に強力な能力です。
前述の《マートル》で能動的に《イシュタル》を表向きにすれば中盤から発動できますね。
「神域との邂逅」以降は10枚の(逆に言えば10枚しかない)ディンギルを
いかに適正なタイミングで降臨させるかが重要となります。
《生れ出る『恵愛』イシュタル》は見た目のコストに反して序盤から降臨しやすいディンギルなので、
登場によって増えたリソースから他の強力なゼクスを繰り出したいですね。
開催中の「デュナミス」体験会でも実際にプレイできるので、ぜひ遊びに来てください!
それではまたお会いしましょう。