CHARACTER

2024.08.30

緑の国|コレット

獣人たちに育てられ自然とともに生きる少女「コレット」獣人たちに育てられ自然とともに生きる少女「コレット」

コレット

プロフィール

コレットにも、おともだちできるかなあ?

 赤ん坊の頃に起きた小規模な「天災」からの避難中、両親を亡くした。

 力尽きた母の腕の中で泣いていたところを通りすがりの獣人に保護され、それをきっかけに彼らの里で育てられた。コレットという名前は、顔も覚えていない両親が遺してくれた、唯一の形見。

 素直で優しくのんびりしているが、強い好奇心を示す。総じて〝子供っぽい〟性格。

 物心ついた頃、耳も尻尾も毛皮も肉球も蹄も無いと気付いて号泣。肉球の手袋と蹄の靴を里の皆から贈られた。以降、手袋と靴は成長に合わせて定期的にサイズを調整してもらいながら、ずっと身に着けている。

 獣人たちはコレットに対し、全員が過保護。娘、あるいは妹として溺愛している。

 箱入り娘として育てられた彼女が、怪我や心の傷を負うかもしれない戦争ゲームの代表に選ばれ、里は騒然。なんとしてでもコレットを守るべく、里の者が一丸となっての参戦を決定した。

コレット

Name Colette
Temper 素直 芯が強い
Memo 運動が苦手。転んでも泣かない。
年齢平均と比して低身長。
いつか耳か羽が生えると願っている。
両親の墓は家のすぐ近く。
Favorite パン 甘い果物を使った焼き菓子
Birth 15歳 ♀
Size 132cm
Job 子供らしく遊ぶこと
Family 獣人の里のみんな

里の住人

Population 少なくとも百名以上は在住
Temper 楽観的 過保護(対コレットのみ)
Memo 獣の姿を強く残す住民が多い。
国家中枢からは離れた場所にある。
騒乱は少なく、極めて平和。
経済観念が薄く、物々交換が主。
Favorite 菜食主義
Tribe 獣人

緑の国 : レヴリヴェール王国

 ――この国では、享受こそ正義である。

 遠い昔の伝承を礎に、精霊信仰に傾倒する、ただひとつ〝発展を拒む〟国。

 土着の妖精や獣人と交流し、自然をありのままに受け入れる生活に起因してか、一般的な人間も比較的長寿。水源や食糧が豊かで協調性も高いため、大半は温和で善良。争い事はほとんど発生しない。

 他国の技術に関しては強い好奇心こそ示すが、自然と馴染まないならば取り入れようとしない。

 建国以前から精霊と交信している妖精【天弓姫】が王の座に就いている。

ヴェルジュ

Illust. 冬佳

 現・女王ヴェルジュは戦争ゲームに否定的。

 滅亡を避けるためにも国民の参加を促してはいるが、苦悩し、眠れぬ日々を過ごしている。

 戦争ゲームランキング「4位」(2024.夏時点)

コレット : はじまりの物語

 ちょっぴりむかしのはなしです。

 レヴリヴェールおうこくで、たいへんな雨がふりました。

 湖をあふれさせ、土をおしながしたその雨は、くににすむひとびとや妖精をくるしめました。

 しかし、自然にたちむかってはいけません。自然はうけいれるべきものです。ずーっとずーっとむかしからのきまりです。

 せめてあんぜんなところにいこうと、湖のちかくにすんでいたひとたちはにげました。

 雨のなかをはしるのは、にもつをしょったおとうさん。あかんぼうをかかえたおかあさん。

 ふたりも湖と雨からにげてきました。けものびとのさとにむかっています。けものびとはみんなやさしく、おきゃくさまをかぞくのようにむかえてくれるのです。

 たくさんはしって、はしって、とおくにさとがみえてきました。

「ああっ!」

 おとうさんのすぐちかくにあった木に雷がおちました。雷は木をとおりぬけ、おとうさんのからだをやいてしまいます。

「そんな……。ああ……。あなた……!」

 おかあさんもうごけません。こどもをうんだばかりで、からだがよわっていたのです。

 あかんぼうが雨でぬれてしまわないようかばいながら、さいごのちからをふりしぼったおかあさんは、てがみをかきました。

『かわいいコレット。ありがとう。どうかげんきで』

 めをつむったおかあさんはうごかなくなりました。

 うでのなかで、あかんぼうはずっとなきつづけました。

 しばらくして、ようやく雨がやみました。

 なきごえをききつけたけものびとが、あかんぼうをみつけてびっくりします。

「かわいそうに……。さとでそだてろという、世界樹と精霊さまのおみちびきかもしれないな」

 おいのりをささげたけものびとは、あかんぼうをひろいあげてさとへもどりました。

◆ ◆ ◆ ◆

「コレット! 起きて! あーさーだーよー!」

「うぅ~……?」

 小さな手に身体を揺らされて、コレットの意識が心地よい眠りから浮上する。

 でも、まだ眠い。重たいまぶたを薄く開けて、すぐに閉じた。

「あー! また寝ちゃった!」

「そんなんじゃコレットは起きないよ。こうするんだ。えいっ!」

 意識の遠くで聞こえた掛け声のあと、なんだか肌寒くなったような気がした。

 掛け布団が取られたのだと気付く。

「おふとん返してよぉ~……」

「ダメ! 朝ごはん!」

「せっかくハムスターさんがパンを焼いてくれたのにな? コレットが食べないならお父さんが頂こう」

「やだぁ……。コレットが食べるもん……。パパの分ももらうぅ……」

 むにゃむにゃとささやかな反抗を示したコレットが、観念して起き上がる。

 大きな伸びと欠伸をしたところで、少しずつ意識が降りてきた。

「……おはよぉ」

「「おはよー!」」

「先に行ってるからな」

 元気に挨拶を返したふたり組は、服を着た二足歩行の小さな鹿。獣人ウェアアントラーの子供たちである。

 ふたりの兄弟と父親が寝室を出て行くのを、コレットは眠気が抜け切らない表情で見送った。

「お着替えは……? ごはんのあとでいいかぁ……」

 着替えには時間が掛かる。そんなことをしてたら、大好きなパンを残らず食べられてしまう。

 コレットは樹木をくり抜いて造られた階段を降り、パジャマ姿のまま食卓へと向かう。よたよたと歩いた末、最後の段を踏み外して転んでしまった。

「いたっ!」

「おいおい大丈夫か? ほんっとコレットは朝に弱いなあ」

「うん。お尻打ったけど大丈夫ぽい。……あ!? 甘いパンの匂い!!」

 丸太のテーブルに、ところ狭しと皿やバスケットが並べられている。その中に、大好物の果物パンとマフィンを見付けたコレットの口元が一気に緩む。すっかり目も覚めたようだ。

「コレット、こっちこっち!」

「こっちー!」

 兄弟の間に空けられたスペースに座ると、みんなで声をそろえて〝いただきます〟と手を合わせる。

 野菜中心ながらボリュームのある朝食に舌鼓を打つコレットに、アントラーが優しげな声で尋ねた。

「今日はどこへ遊びに行くんだい?」

「えっとねえ」

 獣人の里の大人たちは、共同生活を送るうえで役割を分担している。

 けれど、まだ子供扱いのコレットの役割は、たくさん遊ぶこと。人気者のコレットはほかの子供たちからひっぱりだこ。先の予定はいっぱい詰まっていた。

「ええっと……。そうだ! アルマジロちゃんとレインディアーちゃんの3人で、お花畑に行くの! みんなにも、お花の冠をつくってきてあげるね!」

「そうかそうか。楽しみだな」

 アルマジロとレインディアーは、コレットのあとから生まれた。

 獣人たちは住居こそ異なるが、集団の共同生活を送っている。レヴリヴェール王国の者は総じて長命であるため、里で過ごす獣人のほとんどが兄や姉、あるいは親のような存在だった。

 そんな中、数少ない年下であるふたりを、コレットは生まれた時から大層可愛がっていた。

 のんびりと雑談に花を咲かせながら朝食を終え、使った皿をまとめたコレットはすくっと立ち上がる。

「ごちそうさまでした。お着替えしてくる!」

 自室に戻り、真面目な顔でタンスの中身とにらめっこするコレット。

 里中から甘やかされているため、様々な獣人からおそろいの〝可愛い服〟を大量に与えられていた。

「どれにしようかな?」

 動きやすいオーバーオールや、最近あまり着られていないブラウスにスカート。

 あれこれと引っ張り出し、腕を組みながら〝む~……〟と唸る。

「……一番お姉ちゃんぽいお洋服にしよう!」

 最終的にコレットが選んだのは、最近よく着ているお気に入りのワンピースだった。

 着るのが少しだけ大変な服だが、初めてひとりで着られた日、〝コレットもお姉さんになったなあ!〟と褒められた。以来、コレットの中ではお姉ちゃん服という位置付けになっている。

「えーっと。えーと……」

 着る順番や裏表を間違えていないかを何度も確認しながら、ワンピースに腕を通す。

「……よしっと!」

 次に靴下を身に着け、ブーツを履いた。

 硬い爪先でこつこつと床を小突いて調整するが、なんとなくキツイ気がする。

「あれ? ちょっとちっちゃい? おとうさんにお願いしなきゃ」

 このブーツは、何度もサイズを直しながら履き続けている大切なもの。

 成長して言葉を喋り始めた頃、〝なんでコレットだけあしがやわらかいの? パパとちがうのやだぁ!〟とアントラーの前で号泣してしまった。それを受け、硬い蹄を持つ獣人一同が試行錯誤してつくり、コレットに贈られた。……という経緯のある宝物だった。

「こっちは~……。だいじょぶ!」

 最後にお気に入りの手袋を装着し、鏡の前でくるっと回転して確認した。

 手袋に付けられた肉球で自分の頬を挟み、にっこり笑顔。

 もちろんこの手袋も、幼いコレットが〝コレットだけおててちがう! やだぁ!〟と号泣した結果、やわらかな肉球を持つ獣人一同から贈られた。もうひとつの宝物だ。

 着替えを終えて戻ると、アントラー兄弟たちが出掛けるところだった。

「行ってきまーす!」

「子供は元気一杯遊ぶのが仕事だからな。気を付けるんだぞ!」

「コレットは、ラクーンにいに結んでもらってから遊びに行くね」

「それなら丁度いい。あのカゴを持って行ってくれるかい?」

「いいよ! 行ってきまーす!」

 愛用のお出掛けカバンを肩に掛け、お使いのカゴを片手に、コレットは扉を開けた。

「お日様がまぶしい!」

 最初の目的地は〝数本〟先の家。

 アントラーの住居とは異なり、大木の枝に居住空間を設置した簡易的な家屋である。ラクーンは大木の根本を流れる川で大量の衣服と格闘していた。

「ラクーンにい、おはよう! 髪の毛やって? あとこれもお願い!」

「はいよ! 髪は少し待ってくれ。まずはこれを干して……。っと」

「コレットも手伝う!」

 里の洗濯を一手に担うラクーンは、群を抜いて手先が器用だ。

 ある時、手遊びにコレットの髪を三つ編みにしたところ、大層気に入った彼女から毎日頼まれるようになった。もちろん嫌な顔ひとつせず、毎日リクエストに応えている。

「コレットも大きくなったもんだ」

「なったかも!」

 彼の手が届かないところでも踏み台を使わず干している背中を見ながら、ラクーンは感動の溜息をつく。

 コレットの身長は決して高くはないが、獣人の体格は千差万別。特にラクーンは成人しても小柄だったため、あっさり身長を追い抜かれてしまった。

 洗濯物はすぐに干し終わり、ラクーンは小さな手でぱちぱちと拍手を贈る。

「それじゃお礼だ。座って座って。今日も可愛くしてあげるからな!」

「うん!」

 近くの切り株に座り、これからの予定をあれこれ話しながら髪を結ばれていると、草むらを掻き分ける音がした。

「おや、コレット。お出掛けかい?」

「ハムスターねえだ! パン美味しかったよ!」

「花畑に行くんだってよ」

 白い帽子と赤いスカーフがトレードマーク。村一番の料理獣人、ハムスターだった。

 パンの配達帰りだったのか、ほとんど空になったバスケットを身体に結んだ紐で引きずっている。

「甘いの、おやつに持っていくかい?」

「え!? いいの!?」

「いいよいいよ。少し余らせちまってね。喜んでくれる子に食べてもらうのが一番さ」

 ハムスターは小さなマフィンをぽいぽいと渡していく。

 ひとつひとつ受け取ったコレットは、丁寧にハンカチでくるんだ。

「やったあ! ありがと!」

「どういたしまして。ラクーンも受け取りな。そこ置いとくよ」

「俺にもくれるのか。サンキュー!」

 和やかな空気の中、ラクーンはコレットの髪を結び終える。

「完成だ。元気に遊んで来い!」

「うん! 行ってきます!」

 ぱたぱたと走っていくコレットの背中を、小さな獣人たちは手を振って見送った。

◆ ◆ ◆ ◆

 一方その頃――

「女王様!? なぜこのような辺境へ!?」

「女王ではありません。王女あるいは姫と呼んでください」

「失礼しました。【天弓姫】!」

 畑仕事をしていたアントラーの元を、麗しき妖精が訪ねていた。

 レヴリヴェール王国の指導者、女王ヴェルジュだった。王国が成立するより遥か昔に生まれた妖精として知られるが、年齢に関する話題は禁忌。老いを感じさせる要素は皆無なのだが、本人だけがやけに気にしていた。

 少しでも若く見られる努力を欠かさない。

「そ、それでなんのご用件でしょう?」

「世界樹の泉に棲まう精霊様より、神託を授かりました」

「戦争ゲームの招集ですか! ……いいでしょう。私が選ばれたのならば喜んで――」

「いいえ。違うのです。本来ならば遣いの者か親書を届けるのがならわしですが、事態が事態。本人の意思を直接確認したく、訪問した次第です」

「ま、まさか……」

「コレットさんはどちらですか?」

 ヴェルジュは額に手をかざし、周囲を見回す。

 白地メインに紫色がワンポイントとなっている衣装の袖が翻った。

◆ ◆ ◆ ◆

 里で一番きれいな花畑にて。

「次はなにするの、コレットおねえちゃん?」

「鬼ごっこと隠れんぼはしたし、ケンカごっこもわりと楽しかったよ。わたしたち仲いいから新鮮だった!」

「ふっふっふ……。次は! なんと! お花の冠を! いっぱいつくるよ!」

 アルマジロの質問とレインディアーの振り返りを受け、コレットがお姉さんらしく胸を張る。そして――

 とっておきの切り札をたっぷりの間を溜めてから告げ、さらなる特典も付け加えた。

「そして! なんとなんと! おやつもあるんだよ!」

「おやつ!?」

「やった~!」

「ハムスターねえからもらったんだ。みんなで食べようね!」

 花畑でおやつを食べながらのんびりと冠をつくっているコレットたちの周囲に、影が横切る。

 なんだろうと空を見上げるより先に、大きな鳥が舞い降りた。

「コンドルさんだ」

 訪れたのは里の運び手こと鳥獣人コンドルである。

 彼はまくし立てるように、コレットへ呼びかけた。

「コレット! アントラーさんが呼んでる! 〝急いで帰って来なさい〟って! だけど〝遊び終わってないならいいよ〟とも!」

 アントラーがコンドルを使いに出したのは、女王ヴェルジュと戦争ゲームの件である。しかし、子供の仕事は遊ぶこと。もしまだ遊び足りない様子ならばと、非常にふわっとした依頼となっていた。

「じゃあ、この冠つくり終わったら帰るね! ふたりともそれでいい?」

「いいよ! だったら最後はすっごいのをつくろっと!」

「うん! わたしもおかあさんの分は特別丁寧にしなくちゃ!」

 コレットたちが焦る様子は無かった。

 あとひとつで家族全員の花冠が完成する。ひとりだけ冠がもらえなかったら悲しい思いをするだろうから、投げ出すわけにはいかなかった。

「じゃあ、待ってるよ」

 里の一大事が起きようとしていた。

 女王自らアントラーの元を訪れた目的を知っているコンドルは、素直に待ちはするものの、時間の経過を気にしてしまう。目上の者をあまり待たせるのも失礼に当たると考えていた。

 その様子を不思議そうに見ていたアルマジロとレインディアーが、はっと気付いてしまう。

「コレットおねえちゃん! コンドルさんもお花の冠、欲しいんじゃないかな?」

「きっとそうだよ! そわそわしてるもん!」

「えっ」

「ちょうど家族の分はつくり終わったから、コレットがコンドルさんの分をつくってあげる!」

 最後の花冠を仕上げたコレットは、追加で花を摘み始めた。

「ああああああああ! 違う! そうじゃないんだ!」

「コレットの花冠じゃ……。いや、なの?」

「めっちゃ欲しい! よろしくッ!!」

 一瞬、哀しそうな顔になったコレットを見て、コンドルは爆速で答えた。

 満面の笑顔に戻ったコレットが上機嫌で作業を再開するのを、もはやただ見守るしかない。

◆ ◆ ◆ ◆

 コレットの件を聞き付けた、たくさんの獣人が集まっている。

 ざわめく空気の中、コレットたちを背に乗せたコンドルが着地した。頭には花の冠が乗せられている。

「すまない。遅くなった!」

「ああ、コレット、おかえり! コンドルも、急に頼んですまなかった。【天弓姫】には茶菓子とお茶をこれでもかと振る舞っておいたから問題ない」

「えっ……。あーしの扱い雑過ぎ!」

 ヴェルジュが白地メインに橙色がワンポイントとなっている衣装の袖で口元を覆う。

「パパ、どうしたの?」

「いやなに、コレットに聞きたいことがあってね」

「なあに?」

 不思議そうな顔をするコレットの前で、アントラーは少しばかり言葉を探す。

 しばらく経ってから、ようやく口を開けた。

「……コレットは、里のお外に行ってみたいと思うかい?」

「お外? なんで?」

 疑問を抱くコレットに答えたのは、父ではなく兄弟たちだ。

「コレット、選ばれたんだって!」

「あのお祭りのやつ! なんだっけ? ケンカごっこするやつ!」

「わりと楽しいよね、ケンカごっこ!」

 コレットも戦争ゲームは知っている。人間の街へ行った時、映像を見た。

 ただし、ショッキングなシーンは両目を隠されるなどして伏せられ、詳しく聞こうとしたら〝五つの国すべてが参加するお祭り行事だよ〟とだけ教えられた。

「あのお祭り! コレットが出られるの!?」

「いんや、まだ。精霊様のお導きとはいえ無理強いはしたくないじゃん? あーしもこんな愛らしい、どちらかと言えば幼い少女を戦場へ送り込むのは気が引けるっしょ。あっ。あーしもまだまだ、まだまだ若いからね? そこんとこ、しくよろ!」

 ヴェルジュはどんな時でも若さアピールを忘れない。

「うーん……」

「【天弓姫】の言う通りだ。断っても構わないんだぞ。精霊様のお言葉は素直に享受するべきではあるが……。それでも」

 しゃがみこみ、コレットに視線を合わせるアントラー。

 内心は〝行きたくないと言ってくれ〟という想いでいっぱいだったが――

「お外、行ってみたい!」

「それなら僕も行きたい!」

「みんなでケンカごっこして遊ぼう!」

「ほかのみんなも行きたいよね?」

「うん! 行く! みんな一緒!」

 コレットの言葉を皮切りに、子供たちが一斉に騒ぎ出した。

 指名された本人以外はともかくとして、肝心のコレットが興味を示したのであれば、里の獣人たちに止める術は無い。NOを突き付ければ間違いなく号泣されるからだ。

「……となれば仕方ない」

 決意を固めたアントラーは、庭の農具入れに隠していた刀を手に取る。

 そして、集まった獣人たちに大声で呼びかけた。

「よし。我々獣人の里一同、コレットとともに戦争ゲームへ参加しよう! コレットを怪我させない。コレットを楽しませる! もちろんほかの子らもだ!」

 反対する者は誰もいない。

「「「「えい、えい、おー!」」」」

 みんなが楽しそうなら、自分も嬉しい。

 まだ見ぬ外の世界への想像も相まって、コレットは目を輝かせた。

「えーと。なーんか想定外のことになってんけどさ、精霊様のお導きって感じで万事オッケー? んじゃ、詳しい日時は追って連絡するから。そーゆーことでー」

 ヴェルジュはひらひらと橙色の袖を振りつつ、ぱっと消滅した。

「パパたちも楽しそうだね! コレットもお祭り楽しみ。おともだち、いっぱい出来るかなあ?」