STORY

2024.06.16 【 2024.06.16 update

DramaCD ブックレットの裏の裏

NC DramaCD03
「ソトゥミサ放送局R」裏

2015.2.22 release

ソトゥミサ放送局R

「またしても黒崎神門にしてやられましたわ! ああああ! もおおお!」

「いい加減、実力の差を認めれば?」

「冗談じゃありませんの! 絶対、絶対、ぜーったい、思い知らせてやりますの!」

「……はあ。どうして、こっちのほのめはこんな」

 迦陵頻伽はほんの数日前の出来事を思い返した。


「無理! そんなの、あたしひとりじゃ、絶対できないし!」

「ひとりじゃありませんの。過去の私が、きっと、優しくしてくれますわ」

「だったら、ママも一緒に来てくれれば……」

「私は残りますわ。残る責任がありますの。ブレイバーやギガンティックを、少しでも倒さなければなりませんもの」

「それならあたしも、最後までママと一緒に戦う! 並行世界なんてどうでもいいし!」

「聞き分けてくださいの。ブラックポイントがいつまで開いているか分からない以上、迷ってる余地はありませんわ。こんな世界、二度と生み出しちゃいけませんのよ?」

 赤の世界は力に支配されている。

 闘争の理により、大地は、海は、空は等しく蹂躙され、文明は衰退の一途。

 力なき者から徐々に行き場を失くしていた。

 特に脅威となるのが、過去の英雄が復活し、人智を超えた能力を備えるブレイバー。

 そして、ブレイバーをより高みへ導くため創造された、生ける鉱石ギガンティックである。

 ある時、ギガンティックの創造主が差し向けた暁十天により研究所が襲撃され、人々から〝悪魔〟と呼ばれるブレイバーの創造主は行方知れずとなったが、変わらずブレイバーは生まれ続けている。

 襲撃の際、技術が流出したのだろうか。

「世界が終わるのは、あいつらの仕業。ママは悪くない」

「私も彼らと共に〝三博士〟と呼ばれ、もてはやされたものですわ。たくさんのミソスを生み出し、ブレイバーを支援し、崩壊を助長させましたの。同罪ですのよ」

「もう、こんな世界、見捨てよう! 一緒に行こう! 一緒にあいつら、やっつけるし! 一緒に……うぅっ……」

「さては私が死ぬとでも思ってるんですの? 大丈夫。諦めの悪さと、しぶとさには自信がありますのよ。びんがも、役目を果たしたら帰ってきてくださいの。待ってますわ」

「ぐすっ、うぇっ……」

「わがっだ……」

(いい子ですの。行ってらっしゃい)

 蝶ヶ崎博士は自らが生み出した最高傑作にして愛娘である迦陵頻伽を、笑顔で送り出した。

(ずっと元気でいてくださいの。私の可愛い、びんが)


 迦陵頻伽はブラックポイントを通じ、並行過去である「現代世界」 を訪れた。

「分かったし。ママの研究をやめさせ、黒崎神門と倉敷世羅を排除する。それがあたしの役目!」

ショートストーリーの関連人物

迦陵頻伽 蝶ヶ崎博士に生み出された「極麗六鳥」の三女。強情で泣き虫。息を引き取ろうとする博士から〝黒崎神門の暗殺〟を願われ、並行過去、つまり現代世界の蝶ヶ崎ほのめを頼った。火災のトラウマから炎に恐怖を抱いていたが、やがて克服している(苦手なのは変わらず)。おもな攻撃手段は超音波と頭突き。
蝶ヶ崎博士 赤の世界に進んだ蝶ヶ崎ほのめ。赤の世界を終末に導いた「三博士」のひとりとして悪名高い。遺伝子工学に長け、ミソスを開発した。末期には犯してきた非道を俯瞰的に見られるようになり、改心。歌で平和を実現する「極麗六鳥」を設計・創出した。親しい友人からは〝ホノ〟と呼ばれる。
黒崎博士 赤の世界に進んだ黒崎神門。赤の世界を終末に導いた「三博士」の主犯格として超絶悪名高い。遺伝子工学の第一人者として、ブレイバーを開発した。最初のブレイバー「九大英雄」が暴走したこと、最強のブレイバー「《最凶生物》(ザ・ワン)」が創られたことで、赤の世界は終焉を迎えたとされる。
倉敷博士 赤の世界に進んだ倉敷世羅。赤の世界を終末に導いた「三博士」のひとりとして悪名高い。遺伝子工学知識は上の中程度だが、持ち前の天才肌と幅広い人脈、優秀な助手にも恵まれ、究極のギガンティック「暁十天」をも設計・創出した。親しい友人からは〝セーラ〟と呼ばれる。結婚願望が強い。

ショートストーリーの補足と解説

 迦陵頻伽が生みの親である蝶ヶ崎博士に想いを馳せる内容です。

 のちに「DramaCD05」のドラマ本編で音声化され、さらに後日、悲劇に至るまでを克明に記した長編「極麗の絆」が公開されています。ブックレット裏記載のショートストーリーは、いわばダイジェスト版。

 蝶ヶ崎ほのめの人物像を知るための必修科目です。

ホノ

 なお、新時間軸において蝶ヶ崎博士の運命は大きく変わっています。

 視力を失う後遺症さえ、旧時間軸と比べてマシなんです。いちおう、いつものやつ言っておきますね。読むと陰鬱な気持ちになるかもしれません。「極麗の絆」はZ/X史上最高峰に重い物語です。

 どうしても読む気が起きない、あるいは面倒くさいという方向けに、かいつまんで書き記します。

 迦陵頻伽は蝶ヶ崎博士が生み出した、最後のミソス姉妹のひとり。三女です。ほかには、長女・胡喜媚、次女・緊那羅、四女・シェリーナ、五女・セマルグル、六女・カナリアがいます。

 カードだけ見ると「極麗六鳥」という共通ワード以外、なんの繋がりも無さそうな6人。

 実は些細なケンカも日常茶飯事の仲良し姉妹です。……でした。

 赤の世界に根付いた壮絶な環境から逃れられず、次々と離れ離れになってしまいます。精神的にも肉体的にもボロボロに打ちのめされた母親、蝶ヶ崎博士の視点で送る自叙伝が「極麗の絆」です。

 緊那羅が神堕ちした理由、セマルグルが迦陵頻伽やほのめにべったりな理由、なども垣間見えます。

 「極麗の絆」公開の内部事情としては、デビュー前のアイドルユニット「iDA」のメンバー、カナリアの登場匂わせという役割もありました。彼女は彼女で蝶ヶ崎博士の凄絶な最期を看取ったため、トラウマを抱えていた時期がありました。

 詳しくは「DramaCD20」の本編で語られているため、そちらのブックレット裏記事で補足しますね。

胡喜媚
緊那羅
迦陵頻伽
シェリーナ
セマルグル
カナリア

 視点を現代世界の蝶ヶ崎ほのめに移してみましょう。まず、彼女はかなり特殊なスタートを切っています。

 本格参戦を果たしたB11「神子達の戦場」に遡ること半年以上前から草の根活動を始め、パートナーゼクスに至っては3人の候補からユーザーによって選ばれました。

 「DramaCD03」のドラマ本編には異能【組成破壊】を利用したケミカルクッキングが初登場。厳密にはその前フリが「ソトゥミサ放送局」にも。到底食べられない素材から美味を創出するという、〝人間業とは思えない〟所業ではありますが……。妙な個性を持つ面白キャラとして認知されました。

 当分、伏線回収するつもりは無かったため、なんら問題ありません。

 そして、2024年。玖珠美甘の登場を受け、9年越しに異能の根源が伏線回収されました。世羅の【機構破壊】に至っては登場直後から語られていたため、12年越しくらいでしょうか?

 こんな感じでZ/XのドラマCDやブックレット裏には、流し読み・流し聴きだとスルーしてしまう初出情報が、ちょいちょい埋め込まれています。

 なんとなく〝引っ掛かる描写〟を見掛けたら、伏線を疑ってみてください。

 短期なら1~3年、長期なら3~5年以上の未来へ向け、種まきを続けています。

 物語が「新しい敵が出たから倒す」だけなら、このような手間は掛けないんですが……。極論、フレーバーテキストが〝わー!〟〝きゃー!?〟〝イェーイ♪〟で終わってしまうんですよね……。

 個人的にはちょ~っと避けたいです!!

セーラ

 三博士(三賢哲)にまつわるエピソードには、もうひとつ「残されたもの」があります。

 2018年に販売された「7周年記念公式同人誌」に掲載されたもので、そもそも冊子の存在をご存じない方もいらっしゃるでしょう。神々の手のひらにあった時点の赤の世界が、倉敷博士視点で描写されています。

 新時間軸の五つの世界は、早期段階で神々の思惑から外れました。

 ……となると、あの人物の運命が改変される予感がしますね! 新たな展開にご期待ください!!

 ついでのオマケ情報です。

 大人になった世羅(セーラ)は九頭竜学院大学時代、蝶ヶ崎ラボに所属していました。おもに性格面で〝偉大なる二番手先輩〟の影響を受けたようです。どことなく似てますよね? あほの女神――

関連リンク / 時系列順

 前後のショートストーリーです。

 ほのめと迦陵頻伽は神門に振り回される形で様々な場に顔を出すため、関連項目が多岐に渡ります。なにげに「DramaCD」シリーズへの出演回数も多く、世羅と同じく「5回」でトップです。

 解説の項で何度も触れた「極麗の絆」とともに「残されたもの」を、近年のフォーマット形式にして転載しました。未読の方はぜひともご閲覧ください。

  • DramaCD03「ソトゥミサ放送局R」ブックレット裏

 世羅とのケンカ(譲れない気持ち)を経てほのめへの信頼を自覚した、迦陵頻伽。その後のマンモンの一件で神門への不信が解消した、ほのめ。ふたりは打倒神門から神の討伐へ身を投じることとなります。

 具体的な続きやさらなるスキマが気になる方は、「蝶ヶ崎ほのめ」 の旧時間軸に格納されている「軌跡」をご参照ください。